ロイヤルズ、30年ぶり栄冠へ機は熟した うまさ、勝負強さが目立った2連勝

杉浦大介

思い出す昨年の屈辱

昨年のワールドシリーズの悔しさが神がかり的な逆転勝利を生み出しているロイヤルズ。今年の初戦は9回1死で同点に追いつき、延長14回に4番ホズマーの犠牲フライでサヨナラ勝ちを収めた 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

「まだ何も終わったわけではない。仕事は残っているよ。去年(のワールドシリーズで)も2勝1敗と勝ち越して、次の試合でも3点をリードした(にも関わらず逆転負けを喫した)。そこで僕たちが学んだことは、決して気を抜かず、常に攻め続けなければいけないということなんだ」

 第2戦後、連勝スタートに思わず表情を緩ませたホズマーだが、最後にそう付け加えて気を引き締めた。2勝0敗とリードした過去9チームはすべて世界一になっている。そんなデータを考えればロイヤルズが絶対有利になったのは確かだが、クラブハウスにも安堵(あんど)は感じられなかった。この緊張感の背後には、ホズマーが言及した通り、1年前の痛恨の敗北があるに違いない。

 昨秋にロイヤルズが織り成したシンデレラストーリーは、ベースボールファンの記憶にまだ鮮明だろう。ホズマー、ゴードン、マイク・ムスターカス、サルバドール・ペレスといった生え抜きを中心に、アルシデス・エスコバル、ロレンゾ・ケーン、ウェード・デービスといった外様選手がバランス良く援護し、低迷チームは大躍進。29年ぶりのポストシーズン進出を果たすと、そのまま勢いに乗ってワールドシリーズまで勝ち上がった。

 ジャイアンツと対戦した最終決戦でも、1敗後に2連勝した時点では、“シンデレラの戴冠”を誰もが予感した。しかし、その後、5年間で3度目の優勝を成し遂げた王者の反撃にあう。3勝3敗で迎えた第7戦では1点を追った9回裏に2死3塁と好機をつかみながら、超人的な投球を続けたマディソン・バムガーナーの前に沈黙。栄冠は目の前でするりと指からこぼれ落ち、ロイヤルズの多くの選手たちはクラブハウスで悲嘆に暮れた。

「簡単には忘れられないこともある。傷は消えていないよ。ただ、その悔しさが今季の好スタートにつながったんだ」

 今季前半戦時点でホズマーはそう語り残していたが、世界一に文字通り“あと1本”まで迫った上での敗退は、実際に簡単に忘れられない苦い記憶だったはず。それと同時に、絶好のモチベーションでもあり続けてきたのだろう。

漂う筋金入りの強豪の貫禄

 雪辱を期した今季――。開幕7連勝と突っ走ったロイヤルズは、8月8日には2位に10ゲーム差をつける圧倒的な強さでア・リーグ最高勝率を獲得。トレード期限にはクエト、ベン・ゾブリストといった新戦力を獲得し、フロントも“最後の一歩”をサポートした。そして、エゴのないタレント集団は、プレーオフでも神がかり的な逆転勝利を生み出し続けている。

「試合終盤、どんな状況に置かれても、何か良いことが起こるはずだと信じることができる。このチームは苦境から巻き返し、勝利のすべを見つけることができるんだ。スペシャルなものを感じるよ」

 新戦力のゾブリストがそう証言する通り、現在のロイヤルズには特別な力が宿っているように見える。上質な守備力、走力、ブルペンに裏打ちされた総合力は紛れもなく本物。多分に勢いの恩恵を受けた感のあった昨季と比べ、筋金入りの強豪の貫禄を漂わせるようにもなった。

 30年ぶりの世界一に向けて、機は熟したのだろう。だからこそ、ロイヤルズは今季、絶対に勝っておかなければならない。生え抜きの若手主体とはいえ、戦力均衡化の進むMLBで絶好機はそう何度も訪れない。

 30日の第3戦から、ワールドシリーズは舞台をニューヨークに移す。DH制度がなくなるナ・リーグのルール下でも、ロイヤルズは悲願の栄冠に近づけるか。大人の階段を上るシンデレラは、世界の首都で“最後の一歩”を踏み出せるか。

 緊張と寒さで身も凍るような敵地で、カンザスシティの躍進チームに2年越しの審判が下されることになる。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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