ザルツブルクで得点量産、南野拓実の野望 「ここに来たのはステップアップのため」

元川悦子

目先の目標は2ケタ得点

ここまで7ゴールを決めている南野。目先の目標は2ケタ得点だ 【Bongarts/Getty Images】

 心身ともに充実した状態で迎えた7月25日のリーグ開幕・SVマッタースブルク戦。本人の期待に反し、南野はまさかのベンチスタートを余儀なくされた。「意思疎通がスムーズなドイツ語圏の選手をまずは使って手堅く勝ちにいく」という指揮官の思惑があって、結果的に日本人の彼が割を食う格好になったのだ。そこから3試合は控えが続いたが、じっと我慢して虎視眈々(たんたん)とチャンスをうかがい続け、8月11日のSVリート戦で初スタメンの座を手に入れる。その重要な節目で2ゴールと大爆発。「そこでだいぶ自信がついた」と南野もしみじみ語るように、確固たる浮上のきっかけをつかんだという。

 それ以降、先発に定着。8月30日のシュトルム・グラーツで1点、9月12日のSVグレーティヒ戦で2点、10月4日のラピッド・ウイーン、17日のアドミラ・メドリング戦でそれぞれ1点と、コンスタントにゴールを重ねている。同じポジションを巡るライバルには、22歳のノルウェー代表FWハーバード・ニールセン、同じく22歳のペルー代表のヨルディ・レイナ、南野と同じ20歳のU−21ドイツ代表MFハニ・ムフタルらがいるが、彼らとの競争も一歩リードしている状況だ。

「チームメートは各国代表でバリバリやってる選手ばっかりだし、本当に気を抜けない。自分もこの前のイラン戦(1−1)でやっとA代表デビューできましたけれど、5分くらいの間の出場で一度もボールを触れなかった。まだまだ信頼が足りないと強く感じました。代表に定着し、信頼を勝ち取るためにも、チームで結果を出さないといけない」と南野は日々、高いモチベーションを抱き、貪欲に上へ上へと這い上がろうとしているのだ。

 目下、7ゴールの彼にとって、目先の目標は2ケタ得点だ。C大阪時代は13年の5点が最高だっただけに、その関門をクリアすることで、未来への希望が見えてくると本人も考えている。

「2ケタというのはプロになってまだ出したことがない数字ですし、1つの目安。もちろん通過点ですけれど、早くそこまで行きたいなという気持ちが強い。前半戦終了の12月中旬まであと7試合あるから、行けるところまでゴール数を伸ばしたいですね。

 日本ではオーストリアリーグを見る機会はないだろうし、点を取ることで僕が元気でやっているのを示せると思う。『しっかり活躍してるよ』と伝えたいです」と南野は爽やかな笑顔をのぞかせた。

南野「サッカー界はいつ何が起きるとも限らない」

「ここに来たのはステップアップのため」と語る南野は、さらなる高みを目指す 【元川悦子】

 思惑通りにゴール数を伸ばせれば、ステップアップの道も開けてくる。南野がザルツブルクに加入した今年1月には、スロベニア代表のケビン・カンプルがボルシア・ドルトムントに移籍していった。今夏にカンプルはトッテナムへ移籍したソン・フンミンの後釜としてレバークーゼンへ引き抜かれ、今季UEFAチャンピオンズリーグでも活躍している。カンプルを筆頭に、ザルツブルクを飛躍の場にした選手は少なくないのだ。

 クラブ側も「才能ある若手の登竜門」という位置づけを前向きに捉え、セカンドチームのFCリーフェリングを2部リーグに参戦させている。今年6月に京都サンガF.C.から移籍した奥川雅也は現在、こちらで経験を積んでいる。こうしたクラブの哲学も、南野の今後に良い影響を及ぼしそうだ。

「僕自身、ここに来たのはステップアップのため。ザルツブルクからビッグクラブへ行った選手はたくさんいるし、自分も狙ってます。サッカー界はいつ何が起きるとも限らない。この冬に移籍という話が出る可能性もある。そういうことを頭に入れながら、しっかり結果を出したいと思います」

 3日前と同じSVリートを同じレッドブルアレナで迎え撃った27日のオーストリアリーグカップ3回戦でもスタメンでピッチに立った(結果は4−2で勝利)。惜しくもこの日もノーゴールに終わったが、周囲との信頼関係は着実に深まっている。この調子で自分の武器や特徴を遺憾なく発揮し続けていれば、香川真司のように欧州最高レベルまで上り詰めることも可能だろう。

「行けるところまでどんどん行け」とC大阪の先輩・柿谷曜一朗も背中を押していた。近未来の日本代表エース候補の彼には、歩みを止めず、先へ先へと突き進んでもらいたい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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