背負うものが多すぎた南野拓実 セレッソ大阪、3度目のJ2降格が決定

安藤隆人

不調を象徴する“中盤の間延び”

鹿島に敗れ、C大阪の2006年以来3度目となるJ2降格が決まった 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 ホーム・ヤンマースタジアム長居の空に、タイムアップのホイッスルが鳴り響いた瞬間、セレッソ大阪の3度目のJ2降格が決まった。そのとき、スタジアムに詰めかけた多くのサポーターは黙り込み、勝利したアウェーの鹿島アントラーズサポーターのチャントだけが響いていた。

 1−4の敗戦。鹿島に終始ペースを握られ、効率よく得点を重ねられた。攻撃は単発に終わり、永井龍が後半24分に挙げた1点に留まった。

「勝てばまだチャンスがあるし、残留に望みをつなぐために絶対に勝ちたかった。1点目を取られて、出ばなをくじかれた感じはあったけど、やり直そうと全員で慌てず試合を運んでいた。2失点目で突き放されて苦しくなるし、いつもよりもっと難しく感じた」

 試合後、多くの報道陣に囲まれた南野拓実は、小さな声でこう語った。この試合、彼は正直何もできなかった。前半はFWとしてプレーするが、ボールが来ない。今年のチームの不調を象徴する“中盤の間延び”。守備面ではどこでボールを奪って、どう攻めていこうとしているのが不明確だった。奪いどころがあいまいなため、中盤をコンパクトにできない。中盤が間延びし、攻撃は単発、守備は数的不利になることが多く、失点が増える。まさに悪循環に陥っていた。

 その中で前線でのフィニッシュワークを得意とする南野は、高い位置でのポジション取りはするが、ボールが来ず、プレーの回数が減る。そしてボールを受けに中盤に落ちるが、実力のある相手だと、積極的なビルドアップにより中盤に厚みを作られ、今度は中盤から前にボールが運べなくなる。まさに悪循環だった。

降格の瞬間をベンチで迎える

 鹿島戦もまさにその流れだった。前半から南野と永井は前線で孤立していた。鹿島の柴崎岳と小笠原満男のダブルボランチ、右MFの遠藤康が的確な状況判断で、スライドしたりチャレンジ&カバーをすることでC大阪の中盤の自由を奪うと、試合は次第に鹿島ペースに。前半33分に左右に振られ、右からの折り返しを、ファーサイドでフリーとなったMFカイオに決められ、先制点を許す。後半に入って、大熊裕司監督はMF楠神順平に代えて、カカウを投入。カカウがFWに入り、南野は左サイドハーフにポジションを移した。

 しかし、これで現状が変わる訳ではなかった。サイドに居てもボールが来ない。するとカカウと南野はボールを受けるために中盤に落ちることが多くなった。だが、それは逆に鹿島にとって、積極的にビルドアップができ、中盤の守備を強化できる格好の呼び水となってしまった。それが2失点目につながった。まさに前述した悪循環。

 そして、後半19分、南野は交代を告げられ、ピッチを後にした。その後、チームは2失点を喫し、降格を告げるホイッスルを南野はベンチに座って耳にした。エースのはずなのに、結果を残せず、ベンチで降格を味わう。これは彼にとってあまりにも残酷で、言い現せない悔しさを生み出すものであった。

背負わなければならなかった過度の重圧

補強の目玉だったフォルラン(右)が振るわず、柿谷も移籍。南野の背負う重圧は大きかった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 南野拓実は昨年、高卒ルーキーではクラブ史上初の開幕スタメンを飾ると、第14節のジュビロ磐田戦で、クラブのJ1最年少得点記録を更新。以降もバイタルエリアで見せる躍動感溢れるプレーで、チームの主力としてリーグ戦29試合に出場し、5得点という活躍を見せると、Jリーグベストヤングプレーヤー賞を受賞。その名は一気に全国区となった。

 しかし、皮肉にもこの1年目の活躍が彼への重責を増大させてしまった。話は試合後のミックスゾーンに戻る。記者たちの質問に、しっかりと答える彼だったが、質問が後半19分での交代に及んだとき、彼は少し言葉に詰まった後、こう語った。

「……効果的にボールに関われていなかったし、そこが課題だと思います……。チームのためになれなかったのが悔しいし、今はあんまり考えられないですね……」

 これで囲みの輪が解けた。去り行く後ろ姿を見て、彼が背負っていた重荷が手に取るように分かった。まだ成人していない彼が、今年ずっと背負ってきたもの。それはあまりにも大きく、そして過酷なものであった。

 香川真司、乾貴士、清武弘嗣、柿谷曜一朗……日本を代表する才能たちの系譜を継ぐ者として、彼は若くして周囲の期待を一身に背負った。しかも、柿谷が今季途中の7月にスイスのバーゼルに移籍したため、より周囲の期待は彼に集中してしまった。

 香川と乾はブレイクした時期はほぼ一緒で、清武もプロになって2チーム目となる移籍選手だった。柿谷もトップ昇格後、当時J2だった徳島ヴォルティスで2シーズンを過ごした後に古巣に復帰してからエースの期待を背負った。だが、南野はプロ2年目にして、その重圧を背負わなければならなかった。

 チームも今季はディエゴ・フォルランを補強するなど、強化体制を敷きながらも、序盤から思うように勝ち点を重ねられなかった。悪循環の予兆はあった中、柿谷の移籍もあり、さらに苦しい状況に追い込まれていく。柿谷移籍直後の5試合ではわずかに2得点と、チームはゴールから見放され始める。第20節(8月16日)の川崎フロンターレ戦では4得点を奪い、南野も今季初ゴールを挙げたが、4−5で敗戦。その後は再びゴールが遠い試合が続いた。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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