南野拓実、ザルツブルク1年目の収穫 来季を見据える目に宿る自信と覚悟

中野吉之伴

終盤戦の出来に本人も納得

ザルツブルク移籍から4カ月が経過した南野(左)。チームの2年連続2冠達成に貢献した 【Bongarts/Getty Images】

 4月28日、ミュンヘンではバイエルン・ミュンヘンとドルトムントがドイツカップ決勝進出をかけて、71000人の観客の前で白熱の試合を繰り広げていた。ピッチには各国のスター選手が勢ぞろい。テレビ視聴者も非常に多かったことだろう。一方そのころ、そこから電車で2時間弱離れたザルツブルク郊外のグローディヒではオーストリアカップ準決勝が行われていた。わずか1800人の観客に物寂しさを感じながらザルツブルクの勝利(2−0)を見届けた僕は、初めてのスタジアムでミックスゾーンの場所が分からずにウロウロ。幸運にも一人の地元記者が親切に声をかけてくれ、こっちだよと先に立って歩き出し、南野拓実の印象について向こうからいろいろと語ってくれた。

「いい選手だよ、彼は。それにとても成長している。完全に慣れるのにはまだ時間がかかるかもしれないけれど、ザルツブルクは若い選手を起用するクラブだからね。このまま取り組んでいくと主力になれるはずだ」

 南野がオーストリア・ブンデスリーガのレッドブル・ザルツブルクに移籍して4カ月が経った。昨シーズンに続き、ザルツブルクは今季もリーグ、カップ戦を制し、2年連続となる2冠を達成。ヨーロッパリーグでもグループリーグを突破し、決勝トーナメント進出を果たしている(決勝T1回戦でビジャレアルに敗戦)。リーグのレベルでは確かにスペイン、イングランド、ドイツといったトップレベルとは大きな差がある。しかしどんな国でも優勝を義務付けられたチームでレギュラーの座をつかむのは容易なことではない。それだけにリーグの終盤、そんなチームで南野がプレーしている姿に違和感がなくなってきていたことは大きな価値を持っている。

 リーグ最終節のオーストリア・ウィーン戦(1−1)後に、「チームに合流したばかりのころと比べたら、プレーに迷いがなくなり、連続性が出てきたと思う」と伝えたところ、「それは自分でも感じています。見ていてそう思ってもらえるぐらい変われたかなと。変われたというか、やることをはっきり理解して、やれるようになってきています」と、うなずきながら答えてくれた。本人も手応えをつかんできている。

プレーが整理され、柔軟な対応を見せる

チームのプレースタイルになじんだ南野は柔軟な対応を見せるようになった 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 最初の頃から南野は走り回っていた。攻撃だけではなく、守備にも奔走し続けていた。しかしボールに絡む機会は少ない。動いてもパスが出ない。ではどうすればいいのか。やり方になじんていない頃は「これで良かったんだろうか」「こうした方が良かったんじゃないだろうか」と、どうしても一つ一つプレーに対して考え過ぎてしまう。そして考えれば考えるほど、プレーを決断するまでに時間がかかり、最適なタイミングを逃してしまう。

 ザルツブルクのプレースタイルには特殊な面があるのも、なじむのに時間を擁する理由の一つ。極端なまでに選手を中央のエリアに集め、細かいダイレクトパスで崩していこうとする。しかしこれはあくまでもスタイルの一つであり、これだけに固執しなければならないわけではない。ザルツブルクの戦い方を知る相手チームが中央の守備を固めてくるのは定石。崩し切れない時にはピッチをワイドに使うことで相手の狙いを外すことも重要になる。しかし南野は「中央に位置しなければ」と常に窮屈なプレーを自分に課してしまっていた。
 
 最近ではこの辺の感覚がうまく整理されてきたようだ。前述のオーストリア・ウィーン戦ではすでに優勝は決めており、また3日後にカップ戦の決勝を控えるために主力は温存され、若手中心のチーム構成になっていた。そんな状況でフル出場した南野は、とても柔軟なプレーを見せていた。相手守備に手を焼き、自分たちがリズムを作れない時間帯は一度引いてボールを受けて展開を落ち着かせる。一度サイドでボールを受けて相手守備を動かしてから、中央のスペースに入り込んでいく。相手守備がラインを上げたら、その後ろのスペースに飛び出していく。常に決定的なチャンスを狙いながらも、不用意なミスでボールを失わないようにケアをする。特筆すべきは、どんなに深い位置からでもチャンスとなると必ずゴール前にダッシュで駆け上がってくる点だろう。そしてボールが来なくてもまた黙々と自分のポジションに戻っていく。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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