イラン戦で明らかになった日本の課題 「妥当な結果」の裏側にある不安要素

宇都宮徹壱

武藤の久々のゴールで同点に追いつく

後半3分、日本は昨年9月9日以来となる武藤のゴールで同点に追いついた 【Getty Images Sport】

 試合は、当初の予想どおりの展開となった。イランはサイドを崩して折り返し、高さで勝負するパターンでたびたび日本ゴールを脅かす。相手陣内でのスローインもまた、彼らにとって重要な得点チャンスだ。日本は守勢に回る時間帯が長く続き、本田や宇佐美がディフェンスの援護に回るシーンもたびたび見られた。相手がこれだけ出てきているのだから、縦に速く相手の背後を突く攻撃が有効なはずだが、中盤から決定的なパスがなかなか出てこない。前半の日本のシュートらしいシュートは、いずれも遠めからの長谷部と本田による2本のみであった。

 逆に日本のディフェンス陣は、自陣ゴール前の空中戦でよく健闘していたように思う。だが、アディショナルタイムがアナウンスされた直後、吉田が途中出場の6番メヒド・トラビを倒してしまいPKを献上。キッカーの21番アシュカン・デジャガに対して、いったんは西川がセーブしたものの、すぐさまトラビが押し込んでイランが先制ゴールを挙げる。直後にホイッスルが鳴り、前半はイランの1点リードで終了。

 日本の前半についてハリルホジッチ監督は「まったくゲームをコントロールできず、相手がフィジカルでわれわれを支配してきた」と分析。香川を45分で下げて清武弘嗣を起用したのも、フィジカルを前面に押し出す相手に対して「戦えていない」と判断したからであろう。そして迎えた後半3分、ようやく日本は反撃のチャンスをつかむ。本田が右サイドから入れたクロスに、武藤と相手GKアリリザ・ハギギが競り合い、ハギギが触ったボールが武藤に当たってゴールイン。何とも不格好な得点ではあったが、これが武藤にとって昨年9月9日のベネズエラ戦(2−2)以来となる代表2ゴール目となった。

 同点に追いついてからの日本は、相手の激しい球際にも慣れたのか、イラン陣内でそれなりに戦えるようになり、さらには2度の決定的なチャンスも作った。その間、原口元気(後半14分)、岡崎慎司(同21分)に続いて、柏木陽介(同27分)、丹羽大輝(同30分)といったフレッシュな選手を相次いで投入。そして仕上げとして、終了間際の後半43分には武藤に代えて期待の20歳、南野拓実がピッチに送り出された。これが代表初キャップとなる南野や、実に3年ぶりに代表のピッチに戻ってきた柏木のはつらつとしたプレーが見られたのはうれしいが、岡崎以降の交代は勝負よりもテストに重きが置かれていた感は否めない。それはイランについても同様で、1−1のドローに終わったのも、ある意味妥当な結果であったと言えよう。

「新戦力のテスト」という意味では申し分なかったが

試合後、イランの国旗を振り続ける少年。彼の目には、この日の日本代表はどう映ったのだろうか 【宇都宮徹壱】

 あらためて、今回のイランとの親善試合の意義について考えてみたい。「この試合は経験を積むという意味で、とても良いテストになった。われわれのチームが向上するためには、このような試合が必要だった」と、試合後の会見でハリルホジッチ監督は総括している。確かにテストとしては申し分なかったが、一方で日本の課題が明確になった試合でもあった。

「試された選手」の中で合格点が与えられるのは、久々のスタメンでゴールも決め、ワントップと右MFをそつなくこなしていた武藤。トップ下で存在感を見せていた清武。そして代表2キャップ目ながら、90分フル出場を果たした米倉も評価を高めたのではないか。その米倉、前半は「海外組と一緒にプレーする雰囲気にのまれてしまった」ものの、ハーフタイムで「監督から球際を厳しく行くように言われた。『戦えない選手はいらない』とも言われた」そうで、後半は当たり負けしないプレーを随所に見せていた。攻撃面でのアピールは少なかったが、今後も起用されるチャンスは十分にありそうだ。

 その一方で、相手のフィジカルの強さ、インテンシティーの高さに沈黙を強いられた選手がいたのは大いに気になるところ。この試合で言えば、香川と柴崎がそれに当たる。どちらも決してフィジカルに強みがある選手ではないが、テクニックで相手をいなすこともできず、本来の持ち味をほとんど出しきれないままベンチに下がってしまった。ハリルホジッチ監督も「われわれはテクニックを使ってゲームを支配すべきだった」と語っているように、相手の迫力に圧倒されたまま自分たちの強みを打ち出せなかったのは、今後の戦いに向けての不安要素だ。来年9月から始まる3次予選は、これくらいのフィジカルの強さやインテンシティーの高さがスタンダードになることを、しっかり肝に銘じるべきであろう。

 もうひとつ、この試合で危機感を抱いたことがある。日本では南野の代表デビューが話題となっていると思うが、実はイランではこの年代がすでに準主力級の扱いを受けている。20番のセンターFW、サルダル・アズムンは20歳でアジアカップのメンバーにも名を連ねていた期待の星。18番のMFサイード・エザトラヒも19歳で、アンダー世代での国際経験は豊富だ(いずれもロシアのロストフ所属)。対する日本は南野が20歳だが、「新戦力」と位置づけされている米倉にしても柏木にしても、すでに27歳である。とりあえず今予選は乗りきれたとしても、現状のメンバーを脅かすヤングジェネレーションが台頭してこない限り、次のアジア予選での日本の地位は非常に危ういと言わざるを得ない。

 日本サッカー界の伸び悩みに関して、本田は試合後、経済に例えながら興味深い発言をしている。いわく「日本はここ20年で(レベルを)上げてきたけれど、経済と一緒で上げてくればくるほど伸びにくくなる。(中略)今までとアプローチの仕方を変えていかないといけない時期には来ていると思う」。今後の予選で、もし再びアザディ・スタジアムに乗り込んだとき、われわれはどれだけ成長した状態で、本気のイランと相対することができるだろうか。残された時間は、実はそれほど多くはない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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