アジア最強チームを相手に試される日本 イラン戦のピッチに立つのは誰か?

宇都宮徹壱

イラン代表の前日練習を取材する

イラン代表のケイロス監督。13日の日本戦について「非常に大きな学習のチャンス」と語る 【宇都宮徹壱】

 イラン戦前日の10月12日。ホームのイラン代表は、イランサッカー連盟フットボールアカデミーにて、試合前の最後のトレーニングセッションを行った。練習の開始時間は午前10時30分だが、日本サッカー協会からこのインフォメーションが流れたのが午前9時30分。何と、1時間しかないではないか! しかもフットボールアカデミーがどこにあるのかも分からない。これはパスしようかなと思っていたら、同じホテルに泊まっている同業者のMさんから「場所は知っているので、一緒にタクシーで行きません?」という提案を受け、慌ててホテルを飛び出した。

 目的地のフットボールアカデミーは、明日のゲームが行われるアザディ・スタジアムに隣接していた。アザディ・スタジアムは広大なスポーツコンプレックスの中にあり、ナショナルトレセンの役割を担うフットボールアカデミーもその一部として組み込まれている。イラン代表が前日練習を行うグラウンドは、スタンド付きのなかなか立派なもので、すでに集まっている現地メディアの視線の先には、ライトブルーのジャージを着た選手たちが3つのグループに分かれて「鳥かご」に没頭していた。心なしか、キックの際のボールへのインパクトが、日本人のそれとかなり異なる印象を受ける。日本が「ポン、ポン」だとすると、イランは「ビシッ、バシッ」という感じ。タックルでの腰の入れ方も、ヨーロッパ人のように深い。先日のシリア戦以上に、日本は球際での戦いで苦労を強いられそうだ。

 選手がアップを続けている間、カルロス・ケイロス監督のメディア対応が始まった。モザンビーク生まれのポルトガル人指導者は、非常に流ちょうなイングリッシュを話す。われわれ日本のメディアも来ていることに気づくと、笑顔で「コンニチハ」と言ってくれた(ケイロス監督は1996年から97年まで名古屋グランパスで指揮を執っている)。以下、イランの指揮官のコメントから、日本に関して言及している部分を紹介しよう。

「最初にこの試合のためにテヘランを訪れてくれた日本代表、そして日本のメディアに感謝したい。日本と対戦することは、われわれにとって非常に大きな学習のチャンスだ。イランにも優れた選手はいるが、日本のインターナショナルな選手たちとの対戦は、多くを学ぶための非常に稀有(けう)な機会だ。と同時に、この日本戦は今後のワールドカップ(W杯)予選に向けた重要な準備の場でもある。イランは私が指揮した5年間でも進化を遂げているが、日本も非常に大きく飛躍をしている。この試合が終わった時、イランが1点差でも勝利していれば、われわれの選手もまた一歩、前進したと言えるだろう。この機会を逃してはならない。われわれは日本をリスペクトしているが、この試合で彼らを勝たせるわけにはいかない」

「50パーセントの変更」はどのポジションか?

前日練習でのイラン代表。メンバーを入れ替える日本は、彼らの高さと球際の強さに要注意だ 【宇都宮徹壱】

 日本の前日練習は、17時よりアザディ・スタジアムで行われた。この日は、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の前日会見は設定されておらず、練習前の囲み取材での質疑応答が行われた。しゃべり続けた時間は、普段の前日会見の倍近い17分ちょっと。その中で最も注目されたのは、「何人かの選手を入れ替える」と言明したことだ。

「おそらく50パーセントの変更と思って間違いない。この前の試合(シリア戦/3−0)の良し悪しは関係ない。他の選手をトライして可能性を見たいだけだ。何人かは初めての選手になるかもしれない。(中略)特に国内組の選手には、海外のアウェーでどのような行動をとるのか見てみたい。今のところイランは、アジアで最も強い相手なので、彼ら国内組にとって良いテストになるだろう」

 9月のホームでのカンボジア戦(3−0)以降、W杯アジア2次予選の3試合をほとんどメンバー固定で戦ってきた日本代表。しかし、いずれも勝利してグループ首位に立ったことで、多少の余裕が生まれたようだ。もちろん、イランに敗れて再び逆風が吹くリスクもないわけではない。が、相手がFIFA(国際サッカー連盟)ランキングでアジア1位(イラン39位、日本55位)、しかもアウェーであることを考えると、むしろ割りきって出番がなかった選手を試すというのは非常に正しい選択と言える。逆にここで、バックアッパーの力量を試したり経験を積ませたりということをしなければ、今後のW杯予選の戦いに大いに不安を残すことになろう。

 そんなわけで「イラン戦のスタメン予想」にトライしてみたい。メンバーの5〜6人が入れ替わるとして、新たに起用されるのは誰か。センターバックの森重真人は、練習後のミックスゾーンで「チャンスをもらえると思うので、そこでしっかりアピールしたい」と語っていた。おそらく吉田麻也とコンビを組むはずだ。両サイドバックは、東アジアカップの中国戦で試された、丹羽大輝(右)と米倉恒貴(左)のどちらかが起用されるかもしれない。ボランチは長谷部誠の隣に、4年ぶりの代表スタメンとなる柏木陽介が入ったら面白い。トップ下は、このポジションに意欲を示す清武弘嗣、右は本田圭佑を残し、左は宇佐美貴史が濃厚か。サイドバックの交代を1人とすれば、これですでに5人。

 おそらく、吉田、長谷部、本田、そしてワントップの岡崎慎司とGKの西川周作といった大駒を残しながらのテストとなるだろう。注目の20歳、南野拓実については、後半途中からの出場となると予想する。では、どのポジションか? ヒントとなるのは「ボールを背後に要求でき、ゴール前に頻繁に現れてシュートも打てる」「球際でのフィジカル的なパワーは十分なものがある」といった、指揮官の南野に対する評価である。フィジカルの強さと高さで分がある相手に対し、南野は岡崎に代えてワントップで試されるのではないか。そんなことを、あれこれ想像するのが楽しいイラン戦。答えは、日本時間の13日21時30分(キックオフ1時間前)には明らかになる。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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