急躍進のウェールズが悲願のユーロ初出場 若き才能の台頭と頼れるベテランの存在

東本貢司

58年のW杯以来となる晴れ舞台へ

ユーロ予選グループBで2位以内が確定したウェールズ代表。悲願だった本大会出場権をつかんだ 【写真:ロイター/アフロ】

 ラグビーの聖地トウィッケナムにて「レッド・ドラゴンズ(ラグビーウェールズ代表の愛称)」が大敵オーストラリアに惜しくも一敗地にまみれた数時間後、ボスニア・ヘルツェゴビナの地でも敗れ去ったウェールズ(0−2)――が、同グループ3位のイスラエルがホームのキプロス戦でよもやの敗退(1−2)。一転、史上初、悲願のユーロ(ヨーロッパ選手権)2016本大会出場が決まった。何はともあれ、many congrats!

「これは(来週半ばの最終戦・対アンドラまで)据え置きだなと思ったそのとき、イスラエルでの結果を知らされてどっと喜びがこみ上げてきた。夢がかなった。きっとギャリー・スピードもあの世で微笑んでくれていると思う」(監督クリス・コールマン)

 2011年11月に非業の死を遂げた前監督ギャリー・スピードほど、近年、特にウェールズのフットボールファン・関係者に愛され、無上の敬意を集めた人物はいない。そんな偉大なる故スピードの後を託されたことに、コールマンは人知れず悩み抜いたという。

「ギャリーの遺産を絶やすまいと努めたが、わたしにはとても荷が重すぎた。そこで腹をくくって自分のやり方で行こうと思った。それでも、この悲願達成はギャリーの存在があってこそだ。このことはプレーヤーもファンも痛いほど分かってくれていると思う」

 翻って、ウェールズが主要トーナメントの晴れ舞台に登場したのは過去にただの一度きり――1958年のワールドカップ(W杯)・スウェーデン大会のみ。当時の代表チーム監督は、マンチェスター・ユナイテッドでマット・バズビーの右腕としても辣腕を振るっていたジミー・マーフィーその人だったのだが、これも何かの運命と言うべきなのだろうか。

 なんとなれば、マーフィー率いるウェールズが史上初のW杯出場を決めたその日こそ、あの「ミュンヘンの悲劇(ドイツで起こった航空事故)」が起きた同じ2月6日だったのだ。マーフィーとミュンヘン空港に散った掛け替えのない優秀な教え子たち、そしてコールマンとスピード――事情はかなり違えど、成し遂げられたそれぞれのことに共通する感傷と、それを噛みしめながら天を仰ぐ彼らだけにわかる喜びの丈を、今あらためて思わずにはいられない。

ロンドン五輪の前後から若い人材が躍動

ロンドン五輪に出場した「チームGB」には、ラムジー(15番)、アレン(8番)らウェールズの若手が名を連ねていた 【写真:ロイター/アフロ】

 さて、57年前のスウェーデンで後に優勝するブラジルを相手に大善戦(0−1)して以降、長く雌伏(しふく)の時に甘んじてきたウェールズ代表も、今やFIFAランキングで一桁台。史上初めて宗主国イングランドを上回った(15年10月1日付のランキングでウェールズは8位、イングランドは10位)。このユーロ予選でも、10日のボスニア戦まで無敗を誇ってきた以上、今回の成果は必然の結果ではあろう。しかしながら、その急成長の過程はやはり唐突の感をぬぐえない。

 ベイルだ、史上最高額の値が付いた畢生(ひっせい)のスーパースター、ギャレス・ベイルの登場と本格化が、この流れを呼び込んだ……というだけでは語れないものがきっとなければならない。そこで、一つの参考テキストとして、3年前のロンドン五輪で特別に編成された、いわゆる「チームGB(グレートブリテン)」を振り返ってみたい。

 ウェールズ協会は最後までプレーヤー供出に難色を示していたが、本人たちのたっての願いで都合6名がこの「英国代表チーム」に名乗り出ている。ベイル、アーロン・ラムジー、ジョー・アレン、ニール・テイラー、そしてオーバーエイジ枠でライアン・ギグスとクレイグ・ベラミー(ともにすでに現役引退)。ちなみに、残るスコットランドと北アイルランドからは一人も“選ばれていない”。つまり、当時の事情という要素はあるにしろ、この前後からウェールズ発の(特に若い)人材に「見るべきものがあった」。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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