他力本願ではないチェルシーの勝利 アーセナルはまたも課題が浮き彫りに

山中忍

退場者を2名出したアーセナル

前半終了間際にガブリエル(右から2人目)が退場したことによって、アーセナルは数的不利の状況を強いられた 【Getty Images】

 通常、シーズン序盤戦の強豪対決は無難な引き分けでも構わないと言われる。だが、9月19日のプレミアリーグ第6節で実現した西北ロンドンダービーは例外。両軍ともに必勝を期して臨んでいたはずだ。

 チェルシーは開幕5戦でまさかの3敗を喫していた。黒星の数は優勝を果たした昨季終了時とすでに同じ。一方、今季も最大のライバルと目されるマンチェスター・シティは、2節での直接対決(3−0)を含む5戦全勝。勝ち点で11ポイント差をつけられたチェルシーがタイトル防衛に挑むためには、ホームゲームは相手が誰でも勝利が前提のようなものだ。

 アーセナルは開幕節のウェストハム戦(0−2)で不覚をとったが、続く4戦を3勝1引き分けで乗り切っていた。しかし内容は振るわない。辛勝に終わったクリスタルパレス戦(2−1)とニューカッスル戦(1−0)は、いずれも敵のオウンゴールが決勝点だ。

 アーセン・ベンゲル監督は、今夏にペトル・チェフを新守護神として迎えたものの、本格的な優勝争いへの「切符」と言われた新FW獲得は見送っていた。リーグ対決で勝ったことのない、ジョゼ・モウリーニョ率いるチェルシーに敗れれば、開幕2カ月目にして今季も「優勝候補失格」の烙印(らくいん)を押されかねない状況だった。

 そしてアーセナルは、チェルシーに今季初の零封勝利(2−0)を許してしまった。退場者2名を出したのではやむを得ない結果のようだが、その過程ではかねてからの課題があらためて浮き彫りにされている。

 まずは、後半早々に敗戦が濃厚になった53分の1失点目。ハーフタイム目前のガブリエル退場ですでに10人になっていたが、根本的な原因はセットプレーに対する守備の甘さだ。FKからのクロスに頭で合わせたクルト・ズマはノーマークだった。付いていかなかったアレクシス・サンチェスにも問題はあるが、小柄で守備意識も高くはないサンチェスではなく、その隣にいた左サイドバック(SB)のナチョ・モンレアルがマークに付くべきだっただろう。さらに言えば、守備陣のリーダー格であるローラン・コシエルニーがマークの指示を出しているべきだった。頭数ではなく統制の不足が招いた失点だったとも言える。

リーダー不在、自ら招いた劣勢

終盤にはカソルラ(赤)も退場。アーセナルは自ら劣勢を招いてしまった 【Getty Images】

 ピッチ上のリーダー不在は退場劇の裏にも見てとれた。ベンゲルをはじめ、ガブリエルの退場を「不公平」とする言い分は理解できる。小競り合いの相手となったジエゴ・コスタは、相手センターバック(CB)の顔に手を出した時点で一発退場を命じられていても不思議ではなかった。

 だが、そのCBはコシエルニーだ。ガブリエルは要らぬ加勢で立て続けにイエローをもらっている。2枚目はリスタートに備えていた際の軽い蹴りに対する警告。傍にはキャプテンマークを付けていたサンティ・カソルラもいたのだから、力尽くでもコスタから引き離して「頭を冷やせ」と言い聞かせるべきだっただろう。

 そのカソルラは、1点のビハインドで迎えた終盤に自身も退場を命じられた。前半のイエローは、敵のカウンターを止めたテクニカルファウルで仕方がない部分はある。だが、2枚目を提示されたタックルは不用意。すでに1枚もらっている自覚はあったはずが、相手ペナルティーエリア付近で、4対6の割合で分が悪いと思われたルーズボールに身を投げたのだ。距離を詰めてカウンターを遅らせれば十分だった。

 結果論として、ベンゲルはハーフタイム明けのCBカラム・チャンバーズ投入時に、ボランチのフランシス・コクランではなく、その相棒ですでに警告を受けていたカソルラを下げておけばよかったという意見もあるだろう。アウェーで数的不利を背負ったのだから、純粋な守備的MFであるコクランを残す選択は妥当でもある。

 しかし、勝利への決意と考えればうなずける。奏功していればあえて攻撃的MFを残したベンゲルの勇断として称えられているところだ。最大の武器であるサンチェスは、左サイドで対峙(たいじ)した相手SBのブラニスラフ・イバノビッチに、立ち上がり8分から苦し紛れのファウルを強いていた。今季は本人の希望でもあるセンターFW起用が増えているセオ・ウォルコットも、抜けると思われた39分の場面はすんでのところでズマに止められたが、持ち前のスピードで相手DF陣の意識を引き付けてはいた。それだけに、チームとして自ら招いたとも言える劣勢が悔やまれる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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