他力本願ではないチェルシーの勝利 アーセナルはまたも課題が浮き彫りに

山中忍

安定感が戻ったチェルシーの守備陣

チェルシーは守備に安定感が戻った。この日CBで先発したズマ(手前)は先制点を挙げる活躍 【Getty Images】

 とはいえ、チェルシーの勝利はアーセナル自滅による他力本願ではない。敵が1人目の退場者を出す前も試合はチェルシーのペースで進んでいた。モウリーニョは、基本の4−2−3−1システムは据え置きでも、前節までのように最終ラインを押し上げることはせず、両SBそろっての攻め上がりも抑制した。結果、開幕5戦で12失点という異例の乱れを見せた後方に安定感が戻っていた。

 同時にMF陣には攻守に果敢なプレーを徹底していたことから、チームとしては守備的になることなく、カウンターを含む攻撃も小気味良く機能していた。端的に言えば、ほぼ首位の座を独り占めにした昨季の戦い方。右サイドで先発したペロド・ロドリゲスを含め、基本的には放出による穴を埋めた補強で戦力は横ばいに近いのだから、昨季同様のスタイルがチームにはまるのは当然だ。

 オーナーのロマン・アブラモビッチは、ボールを支配して攻め続けるスタイルを理想とするが、今夏の移籍市場で出費を抑えたのもオーナー以下の経営陣。勝利欲はモウリーニョにも負けないアブラモビッチだけに、チームを断線しかけた優勝争いへのレールに乗せるためにも、しばしチーム後方のリスク警戒を良しとするバランス感覚が欲しい。

 無論、チームの面々にも意識改善は必要だ。例えば、ガリー・ケイヒルとズマの両CB。先制数分後のロングボールに反応が遅れた原因は集中力が途切れたからに他ならない。反応したサンチェスがシュートを蹴り損なっていなければ、1−1とされて敵に勢いを与えることになっていた。

両キーマンが最も「らしい」姿を見せる

キーマンの1人であるアザールは追加点を奪うなど、今季最も「らしい」姿を見せた 【Getty Images】

 抜群の集中力を持つジョン・テリーはベンチで試合を終えている。前線にスピードのある敵に対して、指揮官が「DF陣最速」と言うズマが起用され、実際に成果もあった。生え抜きキャプテンでもあるテリーだが、ここはチームのために、プライドと悔しさをのみ込んで次世代とのポジション争いに挑まなければならない。対戦前にはモウリーニョとの確執もうわさされたが、試合終了と当時にベンチ前で抱き合うベテランCBと監督の姿を見る限り心配はなさそうだ。

 攻撃陣ではエースのコスタが、優勝戦線復帰への起爆剤ではなく「自爆剤」になる恐れがある。コシエルニーとの肉弾戦が審判の目にとまっていれば、アーセナルではなくチェルシーが10人で前半を終えていたに違いない。82分に交代を命じた指揮官は、その数分前に、プレーの展開とは関係のないところでアレックス・オクスレイド=チェンバレンに足を出した姿を見逃していなかったようだ。まだリーグ戦で1得点止まりの自分に不満があるのかもしれないが、身勝手な暴走は禁物だ。

 もっともチェルシーの攻撃は、屈強で狡猾な1トップよりも巧妙でしたたかな2、3列目が鍵を握る。中でも欠かせない存在が、中盤中央でタクトを振るセスク・ファブレガスと、左サイドから縦横無尽に斬り込むエデン・アザール。セスクが先制アシストのFKを含む絶妙なデリバリーを見せ、後半アディショナルタイムに追加点を決めたアザールが繰り返し相手ゴールに迫った今節は、開幕以来、両キーマンが最も「らしい」姿を見せた一戦だった。両チームも変わらぬ姿を見せた。アーセナルは昨季までと同じ優勝候補になり切れない姿、チェルシーは今季の連覇は堅いと思わせた昨季王者の姿を。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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