無敗王者メイウェザー引退の信ぴょう性=消化不良のラストマッチも「今が引き時」
試合後、リングに別れを告げる儀式
無敗の5階級制覇王者フロイド・メイウェザーが公言していたラストマッチで大差判定勝利 【Getty Images Sport】
「僕のキャリアは終わりだ。(引退を)正式に発表するよ。引き時を心得なければならず、今は僕にとって潮時だ」
リング上でインタヴューを受けた際にあらためてそう公言すると、MGMグランドガーデン・アリーナに残っていたファンから大きな歓声が上がった。
KO狙わず普段通りの安全運転
高確率でパンチをヒットさせ、ベルトの前進をフットワークでかわす相変わらずのスキルの高さを見せたが、KOを狙ってギアを上げることはなかった 【Getty Images Sport】
コンディションは万全に見えたベルトが最後まで諦めずに前に出続けると、中盤以降は普段通りの安全運転。KOを狙ってギアを上げることはついにないまま、試合終了のゴングに駆け込んだ。
総パンチ中57%、パワーパンチは68%の高確率でヒットした安定感は見事しか言いようがなく、39歳にして健在のスキルを印象付けた。ただ、それほど高確率でヒットできた一因が、戦前から喧伝されたベルトの技術的限界にあったことも紛れもない事実だろう。
「ベルトはハートの強さと、強靭なアゴを持っていた。彼は抵抗をやめなかったから、良い試合になった」
メイウェザーは試合後にそう語ったが、攻撃のバリエーションにも乏しいハイチ系米国人はやはり役不足の挑戦者に思えた。そして、そんな選手を相手にしても石橋を叩いて渡るボクシングを展開するところに、現代の最強王者の物足りなさがある。
最後までらしさを貫いたままお別れ
徹底したアウトボクシングという普段通りの安全運転でラストマッチを終えた 【Getty Images Sport】
リング内外の慎重すぎる姿勢で多くのファンにフラストレーションを感じさせる一方で、全米にはびこる支持者たちはその傲慢かつ勝利にこだわる姿を熱狂的にサポートした。“これでラスト”と言い切って臨んだ試合でも、エキストラのサービス精神はないまま。最後までメイウェザーらしさを貫いたまま、現代の風雲児はリング上からお別れのメッセージを送ったのである。
主役に対する喜びへの薄れ…
12ラウンド残り10秒の拍子木が鳴ると、メイウェザーはベルトと距離を取り打ち合うことなく試合が終了した 【Getty Images Sport】
何より、メイウェザーは今年5月のマニー・パッキャオ戦で2億ドル以上の報酬を稼ぎ、ベルト戦のファイトマネー最低保証も3200万ドル。それほどの興行価値を保つ選手が、余力を残したまま引退するだろうか!?
「このスポーツを19年もやって来て、うち18年は王者であり続けた。多くの記録を達成した。僕がボクシングで証明しなければならないことはもう何もないよ。家族とともに過ごし、子供たちに適切な教育を受けさせるときがきたんだ」
ほかならぬ筆者も引退宣言をまるで信じていなかった一人だが、しかし、ベルト戦後のそんなコメントは実感がこもって聞こえた。その背景には、パッキャオ戦からわずか4カ月後に行われたベルト戦のプロモーション期間中、メイウェザーから少なからず倦怠感が感じられたという事情がある。
19年とは、新陳代謝の激しい米スポーツ界では永遠に思えるほどの時間である。自らを歴史的英雄にしてくれたボクシングに対する愛情の薄れを、メイウェザーはパッキャオ戦後にすでに公言していた。そしてベルト戦の前後も、ビッグイベントの主役になることに対する喜びは薄れ始めているように見えた。
チケット売れ行き不振…PPV激減…
“最強王者の引退試合”は試合前からチケットの売れ行きが不振、PPVもパッキャオ戦に比べて激減必至と見られている 【Getty Images Sport】
ベルトの前評判の低さを考慮に入れた上でも、ビジネスは低調だった。“引退試合”のこのような盛り上がりのなさは、時代がよりエキサイティングな次のヒーローの台頭を望んでいることを指し示しているように思えてならない。
もちろん注目されるのを誰よりも好むスーパースターが、本当に身を引くかどうかは実に疑わしい。しばらくすれば目立ちたがりの虫が疼き、来春にも復帰を発表し、5月か9月に50戦目に臨む可能性がやはり最も高いのだろう。ただ……メイウェザーのための時間は、もう十分にも思える。
新時代の到来を告げるゴング
「引き時を心得なければならない」と話したメイウェザーは試合後、リングに別れを告げる儀式のように、ひざまずいて天を見上げた 【Getty Images Sport】
「引き時を心得なければならない」。メイウェザーの言葉は余りにも正しい。今こそゲンナディ・ゴロフキン、カネロ・アルバレスらを旗頭とするエキサイティングな次世代に進むとき。さまざまな意味で消化不良だったメイウェザー対ベルト戦が終わり、新時代の到来を告げるゴングの音が聴こえて来るようでもある。
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