史上最強トリデンテ“MSN”の絆 ピッチ内外で築いた確固たる信頼関係

工藤拓

チームプレーに徹するようになったメッシ

チームプレーに徹するようになったメッシ(左)の存在は、ネイマールにとっても良い模範となっている 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 しかも、その効果は昨季の成功につながるターニングポイントとなった、1月4日のレアル・ソシエダ戦後に生じた、メッシとルイス・エンリケの衝突事件でも重要な役割を果たすことになる。

 この日L・エンリケはメッシとネイマールをそろってベンチに温存するリスキーなローテーションを行った代償として、0−1で痛恨の黒星を喫してしまう。だが最大の問題は試合後のロッカールームで生じた。メッシが采配ミスを糾弾してL・エンリケと激しく口論を交わした上、翌日の練習を無断でサボるという背反行為まで犯してしまった。

 この時メッシは周囲のフォローのおかげで本来受けるべき罰則を逃れただけでなく、兄貴分のマスチェラーノとダニエウ・アウベス、そしてピッチ内外で“女房役”となっていたスアレスから、自分がいかにチームにとって重要な存在であり、ピッチ上のリーダーとして仲間たちから信頼されているかを伝えられた。

 そしてこの一件以降、メッシはピッチ上でいつになくリーダーシップを発揮するようになっただけでなく、まるで別人のようにエゴを殺してチームプレーに徹するようになったのである。

 例えば5月2日のリーガ・エスパニョーラ第35節。当時クリスティアーノ・ロナウドと得点王を争っていたメッシは、コルドバに8−0と大勝したこの一戦にてハットトリックを達成するチャンスだったPKのキッカーをネイマールに譲った。なぜならその数分前、自身2ゴール目を決めた際にネイマールがこぼれ球を譲ってくれたからだ。

「あのことは忘れられない。レオは世界最高の選手であり、ハットトリックを達成できたというのに。言葉がないよ。ただ感謝するのみさ」

 後にネイマールはこのシーンをそう振り返っているが、もしピチーチ賞(得点王)やゴールデンシュー、年間ゴール数の世界記録更新といった数字にこだわっていた数年前のメッシならば、あのPKも間違いなく自分で蹴っていたことだろう。

ピケが3人の連帯意識を称賛

それぞれの良さを最大限に引き出す3人には、ピッチ内外で築いた確固たる信頼関係がある 【写真:ロイター/アフロ】

 ジョセップ・グアルディオラが監督に就任して以降、バルセロナはメッシの能力を最大限に引き出すべく、メッシがプレーしやすい環境を整えることに力を注いできた。今もメッシを中心にチームが動いていること自体は変わらない。だがひたすらに周囲がメッシに気を遣いながらプレーしていた以前とは違い、昨季はメッシの方にも良い意味で周囲を頼る意識が出てきた。

 以前のメッシは自分がゴールを決める、自分が試合を決めるという意識が強過ぎるがゆえに空回り気味のプレーに陥ることがしばしばあった。それが昨季はチームが勝つために必要なプレーを、その瞬間ごとに、自然に選択できるようになった。その結果、メッシに合わせる意識が強すぎて自分を殺してしまうことが多々あったチームメート、とりわけ3トップを形成するスアレスとネイマールの能力がこれまで以上に生かされるようになったのである。

 メッシをピッチ内外で支えつつ、自身も虎視眈々(たんたん)とゴールを狙い続けるスアレス。2人の先輩クラック(名手)に支えられ、伸び伸びとプレーするネイマール。そして新たな相棒の加入に良い意味で影響を受け、精神面に加えてプレーの幅も一皮むけた感のあるメッシ。

 これまでトリデンテと呼ばれる3選手をいくつも見てきたが、公私を問わずどの2人をとっても優れた補完関係で結ばれている3人のアタッカーは記憶にない。強いエゴを持つスター選手が3人も集まれば、誰かしらが何らかの我慢を受け入れることがなければ関係が成り立たないのが常だからだ。

 昨季のチャンピオンズリーグ決勝の数日前、ジェラール・ピケがこんなことを言っていた。

「自分は7年間マンチェスター・ユナイテッドやバルセロナといったビッグクラブのロッカールームに身を置いてきたけれど、スアレス、メッシ、ネイマールたちのような関係は見たことがない。あらゆる選手にはエゴがある。しかも3人は世界最高レベルの選手であるにもかかわらず、特別なまでに親しい関係を築いているんだ。お互いを助け合う彼らの連帯意識はピッチ上にも反映されている。彼らの仲の良さは本当に特筆すべきものだよ」

 バルセロナが誇るトリデンテの破壊力。それは3つの個の力がただ組み合わさっただけでなく、それぞれがそれぞれの良さを最大限に引き出そうとする連帯意識にこそ鍵がある。そしてその連帯意識は、サッカー選手として、チームメートとしてのリスペクトを超えた友情という確固たるベースの上に築かれたものなのである。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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