オランダで芽吹いた日本人SBの才能 「狙うはリオ五輪」挑戦続ける21歳

中田徹

揺るがないドルトレヒトのポリシー

――1年前はリザーブリーグ。今年は開幕前夜の段階でスタメンが確約されている。プラン通りに来ている?

 できれば昨シーズンの内にトップチームで出たかったです。でもヤングでの2年間は良い経験を積めて、良い流れだったと思います。シーズン最後ってチームはゴタゴタがあるじゃないですか。選手の移籍が決まっているから使われなくなったりとか。そういうことで(昨季のトゥエンテ戦で)チャンスが巡ってきて、それをつかめた。ラッキーな面が続いてくれました。

 今季のプレシーズンは、けがが長引いていました。それが最近良くなった。一方、チームはアマチュアチーム相手にひどい試合をした。ラスト1週間でチャンスをつかめたので良かったです。

1年前はリザーブリーグが主戦場だったが、今季はトップチームでのスタメンが確約されている 【VI-Images via Getty Images】

――ヤン・エーフェルセ監督は理想家の指導者として知られている。

 それは練習していて分かります。自分の考え方をけっこう言ってくるので(自分のサッカーを)持っているんだなと思います。(パスを)回して(相手の守備を)崩して。まさにバルセロナみたいな感じを目指していますね。

――ドルトレヒト自体、長年かなり攻撃にこだわったサッカーをし続けてきた。

(クラブのポリシーが)ありますね。僕もここに来て3年ですけれど、そこは全然揺るがないです。ドルトレヒト全体が(カテゴリーに関係なく)それに向かってやっている。

――リザーブチームでも?

 はい。それはあまり変わらないですね。リザーブチームの試合にもマルコ(ボーヘルス/テクニカル・ディレクター)は来ますし、何かあったらハーフタイムにも試合後にも言いに来ます。うちらのプレーがひどい時には試合後30分、1時間話してます。

――それは説教?

 説教に近いこともありますけれど、マルコの考え、つまりドルトレヒトの考えをちゃんと選手に分からせる。他のチームから来ている選手がかなりいるし、みんな若いから、そこを伝えてますね。

日本人から脱却して自分を主張する

――普段の生活は?

 僕は学生もやっています。全部それは英語です。

――学校へ行ってるんだ。

 はい、デンマークにあるんですけれど、UEFA(欧州サッカー連盟)が提携している大学です。ヨーロッパでもサッカー選手のセカンドライフを考えるというのが重要になってきていて、UEFAも今それに力を入れてます。僕も勉強したいタイプなので、コンタクトを取ったらデンマークに英語で授業をする大学があると言われて、試験に受かってからスポーツマネジメントを学んでいます。

――通信教育?

 そうです。オンラインです。学校側が教授のレクチャーを1週間まるごと撮っておいて、毎週月曜日にアップロードします。それを自分たちで勉強して、テストを受けます。その試験が、一つ企業を選んで財務諸表を探し、損益計算書や貸借対照表を分析してレポートを出す。そこまでが出題から24時間以内。それから質問が来て答えを出す。2週間後にスカイプで口頭試験があって突っ込まれる。結構、きついですよ(笑)。

――自分の大学時代を振り返っても、今の話はかなりレベルが高い。

 方法が違いますからね。僕も16年間日本にいたので、ほぼ日本人じゃないですか。日本の教育のまんまヨーロッパに来たので、最初はこの方法は難しいなと思いました。全然自分の主張ができず、日本人らしいところが出てしまった。でも最近は少しずつ慣れて、良い勉強ができていると思います。グループワークにはサッカー選手もいますよ。

――これはサッカーにも生きるね。

 本当に生きると思います。まったく変わってきます。日本人から脱却して自分を主張していかないと。

今季はドルトレヒトで1番を目指したい

――高校時代の友達が今、大学3年ぐらいでしょう。友人と情報交換すると自分の選択は間違ってなかったと思うんじゃない?

 それは思います。「試験、どんな感じなの?」と聞くと「マークシートだよ」。「勉強、どれぐらいやってるの?」と聞いても「全然(やってない)」とか。だからヨーロッパに来て良かったと思っています。実際のセカンドライフを考えると、今のテストの形のほうが実践に近いので生きるじゃないですか。オランダに来て本当に良かったと思います。サッカーも勉強も両方できますし、いろいろな人に会える。日本人も個性はありますけれど、ここほどじゃない。ここでは 自分を出さないといけないのが大きい。僕は昔から主張しない性格だったので、「メンタルが弱い」とずっと(ユースを過ごした)ヴァンフォーレ甲府時代にも言われてましたし。そういう面でもこっちで成長できた。

――ヴァンフォーレのコーチが驚いているんじゃない?

 はい、まったく変わりましたから。帰省して当時のコーチに車で送ってもらっているときにも「あ、言えている」と僕も感じますし、コーチ陣たちも感じてくれてます。

 僕は中学、高校と進学校の甲陵(山梨県北杜市)に通っていました。親からも「文武両道でやりなさい」と言われて、ずっとそれでやっていました。センター試験を受ける前から「オランダへ行ってサッカーをやりたい」と言っていたんですが、親に「何言ってるの!?」と反対された。でもセンター試験の英語が終わった瞬間、マークミスに気付き、自分で「やっちまった。ああ、もう駄目だ」と。そのミスのお陰で親が「分かった」とオランダ行きを許してくれた。それで今、僕はここにいる。プロのトップチームに昇格しましたし、高いレベルの大学にも行っています。本当に良かったです(笑)。

 昔から文武両道でやってきたから、僕はサッカーのことを1日中考えると練習や試合にフォーカスできなくなってしまう。テストのときとか緊張するじゃないですか。ましてや英語はまだペラペラではないですし。だから、そういうサッカーとは違うところで緊張感を持ったり、大変だったりするのがいい。とても良い環境で両立できています。

今シーズンはドルトレヒトで1番を目指すと同時に、リオ五輪出場も狙っている 【中田徹】

――しかも21歳でゴールドカップ優勝メンバー、メキシコ代表のヘスス・コロナ(トゥエンテ)をマークするなんて、なかなか日本ではできないこと。

 コロナ! コロナはちょっとうざかった。そんなにでかくないじゃないですか。コースを全部切って、あとは体をぶつけるだけとなったとき、いきなり股を通してくるとか。「わー、そこは経験したことないわぁ」と思った。うまいやつらは スペースがない、抜き場所がないとなったら股を通してくる。コロナはそういう引き出しを持っている。あれはいい経験になりました。1失点目は僕のサイドからクロスを入れられましたけど、でも大概は守れたので良かったです。でも一番悔しかったのは宮市くんが右ウイングで入って、サイドが反対だったことです。「こっち来てよー」と思いながらやっていました。日本人対決ができると思ったのに逆に行っちゃったから、それは悲しかった。

――今季のオランダ2部リーグは際選手、VVVの藤田俊哉コーチ、デン・ボスの中田貴央フィジオに加え、スパルタに相良浩平フィジオが入った。4人も日本人がいて面白い!

 選手、俺だけか。すごく面白い! 僕はジュニアユースでグランデ八ヶ岳FC(現ヴァンフォーレ八ヶ岳)、ユースでヴァンフォーレ甲府でやって、最初下っ端だったのが、どんどん上がっていってスタメンに出て問題なくやれるようになり、自分の中ではチームで1番になった。チームの中で頂点になって、次のレベルへということを繰り返し、ヴァンフォーレ甲府のトップチームの練習に参加するようになりました。それと同じようなことがドルトレヒトでも起きている。だから今シーズンはドルトレヒトで1番を目指したい。そうすればおのずとリオ五輪を狙えると思ってます。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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