清水エスパルス残留への3つの光明 クラブ史上最大のミッションへ
リーグ戦の残りはわずか10試合
年間総合順位17位と低迷する清水。田坂新監督の下、J1残留を目指す 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】
あれから8カ月。大きな責務をまっとうしたレジェンド大榎前監督はチームを去り、今は田坂和昭新体制でのリスタートを切っている。古巣である湘南ベルマーレ戦(1−2)、残留を争うアルビレックス新潟(1−1)との2試合を終え1分け1敗と苦しい船出となったが、2試合で見せたチームのパフォーマンスは未来を想像することができる内容だった。現在の年間総合順位は17位。残りわずか10試合となったリーグ戦だが、希望を持って最後まで見守りたいと思っている。
組織力の欠如を露呈して残留争いへ
わずかなオフを挟んで迎えた待望のシーズン。1月の新体制発表会では、「ガンバ大阪がJ2から昇格し、そのままリーグ優勝、3冠を獲りました。われわれが残留争いをしたあとに、優勝できないことはないと思っています」と、大榎前監督はタイトル獲得へ自信と意欲を見せスタートした。また、翌2月には一流企業の日産、そして横浜F・マリノス、湘南といったフロントでの経験を持つ営業畑のスペシャリスト左伴繁雄を新社長に迎えると、新社長は就任早々約33億円規模の安定したクラブ力をつけることを公約にあげるなど新生エスパルスの未来は順調であるようにみえた。
しかし、サッカーの神様は現実がそう簡単に思い通りにならないものであることを突きつける。
開幕戦こそ鹿島アントラーズに勝利(3−1)したが、第2節の新潟戦で引き分ける(0−0)と、第3節の松本山雅FC戦(0−1)から第7節のサンフレッチェ広島戦(0−2)まで5連敗。急きょ、失点を減らすために採用していた長身のセンターバックを4人並べたDFラインから、3バックシステムへ第8節のモンテディオ山形戦(3−3)で変更。そこから3試合連続で引き分けに持ち直し、第11節のヴィッセル神戸戦では開幕戦以来となる勝利(2−1)をつかむが、そこから再び勝利に見放される。
すると、3バックの中央に福村貴幸を起用し、高いDFラインと前線からのハイプレスへと戦術を変更。若くフレッシュな石毛秀樹、水谷拓磨、金子翔太らを中盤で起用したアグレッシブなサッカーは、5−2で勝利した第14節の川崎フロンターレ戦のようにツボにハマれば無類の強さを見せた。しかし、高いDFライン裏の広大なスペースを狙われると途端に危うさを見せる諸刃の戦術は、チームとしての完成度の低さ、組織力の欠如を露呈。成績は一向に上向かず、優勝どころか残留争いに必死という状況に陥った。
ピッチ上に表れた戦術や規律の足りなさ
チームとしての完成度の低さや組織力の欠如を露呈し、残留争いへと巻き込まれた 【写真は共同】
こうした状況に同情の余地はあるが、トップチームは常に結果が求められる。しかし、そうした状況のなかで現実的な落としどころや、そのための戦術、規律が足りなかったように思う。
実際、取材をしているとき大榎前監督の口からは理想とするサッカー観を何度か聞くことができたが、次の対戦相手やその試合で勝つための戦術、持っている戦力での現実的な戦い方、そうしたリアリティーのある話を聞くことは少なかったように感じた。事実、試合後の選手たちの声を聞いていても、「ラインを高めにしたい」「低くてもいい」という意見が混在し、「ハイプレスと素早い攻撃をしたい」というも意見もあれば、「もっとボールを大事に回してもいい」というコメントも出てくるなど、ピッチ上で同じベクトルが働いていたとは言いがたい状況だった。
結局のところ、それは指揮官の采配や練習での動機付けの弱さに起因することだと容易に推測できたし、そうしたディテールの細かさに欠けていたのではないかという印象を受けた。特に若いチームだっただけに、よりどころとするものがなければ脆さを露呈しても仕方がなかっただろう。