清水エスパルス残留への3つの光明 クラブ史上最大のミッションへ

飯竹友彦

新戦力も加わりよりタレントぞろいに

水原三星より加入したチョン・テセは、ピッチ内外でチームを力強くけん引している 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 かくして、大榎政権は7月末の横浜FM戦で終焉(えん)を迎えた。そして、最下位でバトンを受け取ることとなった田坂新監督だが、果たしてこの状況から清水エスパルスを残留に導くことができるだろうか。

 2試合を見ただけであるが、個人的にはひと月前よりもその確率は高くなったと思っている。その理由は3つある。

 1つは新戦力の獲得。

 水原三星ブルーウィングスより加入したチョン・テセ、川崎から期限付き移籍で獲得した角田誠の二人は実績も実力も申し分ない。また、彼ら二人の最大の魅力はこれまでのチームに欠けていた「サッカーに対する熱」を持っている。共に年齢も30歳を越え経験もあり発する言葉に力もあり、前線と最終ラインでうまくチームを引き締めている。

 テセは試合中よりもピッチ外での発言の方で影響力がありそうだが、試合中も常に味方に対して声をかけ続けている姿が何度も見られるし、プレーでも身体を張ったポストプレーや献身的な守備でチームを鼓舞している。

 角田もデビュー戦こそボランチでスタートしたが、途中から最終ラインに入るとラインコントロールを含め声でチームを統率。消極的なプレーには怒声を放ち、相手に対しても火の玉のようにぶつかってつぶしに行くことで味方の闘争心をあおっている。実際、選手たちが「テセさんが」「角田さんが」と個人名をよく出している点からも、わずかな時間であるにも関わらず良い影響、熱が伝わったのかなという心象を受ける。

 2つめは、もともと持っているチームのポテンシャルだ。

 得点に目を移すと、11得点に大前元紀、9得点にピーター・ウタカがランクインしているように、攻撃に関しては結果が出ている。ここに、新加入の元北朝鮮代表のテセ、オーストラリア代表のミッチェル・デュークもいる。また、守備に目を移しても、カルフィン・ヨン・ア・ピン、カナダ代表のヤコヴィッチと国際色豊かな助っ人のレベルも低くない。

 中盤にしても、元A代表の本田拓也を筆頭に、元ユニバーシアード代表やアンダーカテゴリーの元代表などタレントには事欠かない。つまり、クラブの資本力とも言える保有する選手のレベルでいえば、運営規模の小さなクラブとは一線を画している。

 また、元ACミランの遠藤友則がメディカルアドバイザーに就任したことで、けががちだったり、負傷していた選手が復帰し戦力として計算できるようになったのも大きい。特に最終ラインのヨン・ア・ピンや鎌田翔雅の復帰は、指揮官の選択肢に幅を持たせることができるため、チームとしても大きな収穫だろう。

 実際、他のクラブ関係者や記者から、「タレントだけを見たら(J2に)落ちるチームじゃない」と現場で何度言われたか数えきれない。つまり、第三者の目から見てもそれだけのポテンシャルを持っていて、他クラブにはないストロングポイントがあることになる。

現実的なサッカーに徹する田坂監督

田坂新監督は残留に向けた現実的なサッカーに徹することができ、それが今の清水の最大の強みといえる 【写真は共同】

 3つめは田坂監督の手腕。

 といっても「手腕」というのは大まか過ぎて具体性に欠けるので、言い方を変える。それは、今やらなければならないことを明確に打ち出すことができる指揮官という表現にしておこう。というのも、「自分のやるサッカーというよりは、エスパルスが勝つサッカーを展開したい」と就任会見で断言したように、田坂新監督は残留に向けて現実的なサッカーに徹することができる。それが最大の強みとなるだろう。

 言い方は悪いかもしれないが、やりたいサッカーは別にあるかもしれないし、それだけの引き出しを持っていてできる自信もあるだろう。しかし、今は目の前の結果のためだけに自身のプライドを捨て、目的に向かい心骨を注ぐ決意と信念がある。裏を返せば、残留への勝負ができると踏んだ。そういう割り切りができる指導者だ。

 そして、そのためにまず守備に関して明確な方針を打ち出した。ハードに戦うこと、戦える意思を示すこと。また、そうした中で戦術的な約束、チームでの決まりごとをできなければ置いて行くということを選手たちに伝えた。つまり、残された試合数、限られた時間の中でチームとしての最低限の約束事を決めた。

 これは、逆に言えば今まで起用されなかった選手でも、指揮官のリクエストに応えることができれば試合に出場できる可能性が高いということになる。与えられたタスクをまっとうできる選手。すなわち、最終目標のために最大限の努力ができる選手ならば可能性があるということを明確にした。結果、チームには良い緊張感が生まれた。

 これは低迷したチーム状況にあって、個々の選手のモチベーションアップ、雰囲気作りには大きな影響を及ぼしたといえるだろう。こうしたことを、このタイミングででき、かつ伝えることがチームの結束力になると判断した。それこそが新監督の持っている「手腕」であり、引き出しと経験値からなせる業である。

大人のチームへと変貌

 前体制では、「平均年齢23歳の若いチーム」というのが代名詞となっていた。若くて伸びしろのある魅力的なチームという好意的な意味がある反面、勝負弱くて脆さのあるチームというのも言葉の裏には含まれていたように思う。その意味からすると、今は平均年齢も28歳と大幅にアップしたが、チームとして戦える大人のチームへと変貌している。これはわずか2試合だが大きな変化であり最大の収穫だろう。

 戦術的なこと、選手の組み合わせや、そのやり方など、この2試合から読み解けるものはあるし、書ききれないほどの変化がある。しかし、基本となるのは田坂新監督の揺ぎない姿勢。しっかり戦える選手を使うという、そのベースから出てくるチームの雰囲気が残留への第一歩となるだろう。そこにさまざまな戦力、クラブ力をまとめあげ一つの束にし、同じベクトルを向かせることができれば、クラブ史上最大のミッションをクリアできる可能性は確実に上がっていく。

 それでも、「これをやれば100%守れるとか、これをやれば100%勝てるというレシピはない」と田坂新監督が言うようにサッカーに絶対はない。残された試合数を考えると待ったなしの状況であることには変わりない。しかし、昨年の最終戦のように歓喜が訪れるそのときまで、応援の声を緩めないでほしい。

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著者プロフィール

1973年生まれ。平塚市出身。出版社勤務を経てフリーの編集者・ライターに。同時に牛木素吉郎氏の下でサッカーライターとしての勉強を始め、地元平塚でオラが街のクラブチームの取材を始める。以後、神奈川県サッカー協会の広報誌制作にかかわったのをきっかけに取材の幅を広げ、カテゴリーを超えた取材を行っている。「EL GOLAZO」で、湘南ベルマーレと清水エスパルスの担当ライターとして活動した。現在はフリーランスの仕事のほか、2014年10月より、FMしみずマリンパルで毎週日曜日の18時から「Go Go S-PULSE」という清水エスパルスの応援番組のパーソナリティーを務めている。2時間まるごとエスパルスの話題でお伝えしている番組はツイキャス(http://twitcasting.tv/gogospulse763)もやっています。

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