栄光と苦難の“誇らしき”キャリア キャシー・リードが語るスケート人生

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こんな素晴らしい形で引退できるなんて

――選手としての一番の思い出を教えてください。

 たくさんありますけど、その中でも特に思い出されるのは、ソチ五輪前のネーベルホルン杯です。クリスの膝の状態がとても悪く、すごくストレスのかかる試合でした。でも、この試合はソチ五輪出場を懸けた最後のチャンスでした。クリスの膝は、自分でもFDを最後まで滑り切れるか分からないという状態だったらしいのですが、私自身、試合前は彼の膝がどれほど悪い状態だったのかは知りませんでした。でも、実際にはクリーンに滑ることができ、クリスも膝が痛いにもかかわらず「やった!」と大喜びしていました。これが人生でもっとも大きな素晴らしい思い出ですね。

 もう1つは今年の国別対抗戦のエキシビションです。こんな素晴らしい形で引退することになるとは思っていませんでした。ファンやスケート仲間、周囲の人たちからあんなに声援を受けるとは思っていなかったし、最後はグループハグをしてもらいました。こんな終わり方は予想していなかったので、すごく幸せな気持ちになりましたし、それとともに自分の決断は正しかったと思わせてくれました。感情的になりましたし、感動もしました。幸せと悲しみが同居しているような感じでしたね。

国別対抗戦のエキシビションでキャシーは仲間やファンたちから大きな声援を受けた 【坂本清】

――逆に一番悔しかった思い出は?

 2011−12シーズンのNHK杯の直前練習で、リフト中に米国の選手と衝突したことです。それまではクリスの膝は何の問題もありませんでした。でも、相手のブレードがクリスの右足に刺さって、骨折してしまいました。その時、足から大量に出血していて、彼自身も何か悪いことが起きたと分かっていましたが、彼が「やろう」と言って、FDを滑りました。ただ、キスアンドクライで彼が靴を脱いだら血がそこら中に広がって「何で!?」と思いました。結局、右足の指を骨折して、3カ月間リハビリなどで練習ができず、シーズンを丸々棒に振りました。世界選手権には出ましたけど、直前の2週間練習しただけでした。たったその1つの事故のために、最悪のシーズンになってしまいました。本当に不運でしたね。

――現役生活で後悔していることはありますか?

 ないですね。ただ、NHK杯でのアクシデントでクリスが膝のコンディションを崩し、その後今年の2月に原因が判明するまで悪いコンディションが続いたことは不運でした。でも、本当に後悔はありません。

本当に良い旅ができた

着物の衣装と扇子を使った振り付けが大好きだったオリジナルプログラム 【写真:ロイター/アフロ】

――今まで自分が演じた中で印象に残っているプログラムは何ですか?

 選ぶのはすごく難しいですね。本当に大好きなのは、バンクーバー五輪でやった「さくらさくら」と「Lion」のオリジナルダンスで、着物を着て扇子を使った振り付けでした。誰もやったことのない、オリジナルな演技ですし、日本の踊りですごく特別だったんです。氷上で着物を着るなんて今までになかったと思います。クリスの衣装の胸には母方の本物の家紋をあしらっていて、特別な着物なんですよ。ニューヨークでそのダンスレッスンをしたのですが、ニコライ(・モロゾフ)から扇子を使って氷上で映える振り付けを習いました。本当に今までにないプログラムになったと思います。

 衣装で使った着物は、実はその前年のNHK杯のバンケットで着たものなんです。すごく気にいっていたので、それを買い取りました。その着物を使って母親が衣装を作ってくれたのですが、滑りづらいからと裾をバッサリ切られてしまいました(苦笑)。襟のレイヤーと帯はフェイクを取り付けて。母はほとんどの衣装をデザインしてくれました。とっても素敵なんですよ。

――そのプログラムが一番のお気に入り?

 一番のお気に入りは13年の国別対抗戦で滑ったビートルズの曲を使った(FDの)プログラムですね。世界選手権では全然うまく滑れなかったのですが、国別対抗戦ではものすごく良い演技ができました。クリスも演技後に大喜びしていて、とても思い出に残っています。

一番のお気に入り、ビートルズの曲を使ったプログラム 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

――五輪2回、世界選手権8回出場と素晴らしい実績を残してきました。ご自身のキャリアを振り返っていかがですか?

 すごく長いですね。歳をとるわけですよね(笑)。2度も五輪に行き、何度も世界選手権に出ることができ、自分自身をとても誇りに思っています。日本選手権は7度もチャンピオンになれました。おかげで日本中を旅して素晴らしい人々やファンに出会いました。日本スケート連盟、木下クラブそして家族から多大なるサポートをもらい、本当に良い旅ができたと思います。でも、終わったわけではありません。これは次の旅の始まりでもあるんです。たくさんの経験、知識を得ることができましたし、新しいキャリアを始めた今、とても役立っています。その経験などを皆さんのために、そして自分が学び続けるために生かしていきたいと思っています。毎日が勉強です。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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