涙を流した旭天鵬、泣かなかった若の里 去りゆく同期の2人が貫いた相撲哲学

荒井太郎

競い合って後進の指導を

7月場所千秋楽で天凱鵬に敗れ花道を去る若の里。会場のファンから惜しみない拍手が送られた 【写真は共同】

 引退が決定的な若の里は「気持ちだけなら、あと5年でも10年でもやりたい」と気力は十分だったが、負傷を抱える両膝が思うように動かず体力は限界だった。旭天鵬は「体力的にまだいけるという感じはあったけど、気持ちのダメージが大きかった」と余力はあったものの気力が続かなかった。

 人目もはばかららず泣き顔になった旭天鵬と、人前では決して涙を流さなかった若の里。何から何まで正反対の両ベテランだが、それぞれの相撲哲学を最後まで立派に貫いた。

 千秋楽翌日の引退会見で旭天鵬は晴れやかな表情で「今はゆっくりしたいけど、そのうちまわしが恋しくなると思う。後輩に胸を出して一緒に汗を流したい」と語った。親方になっても自らがムードメーカーとなり、現役力士を引っ張っていく姿の想像がつく。

 一方、“おしん横綱”と言われた元横綱・隆の里の弟子だった若の里は、いるだけで稽古場にピンと張り詰めた緊張感を醸し出す、そんな親方になっていることだろう。

 現役中はともに励まし合い頑張ってきた2人の“レジェンド”は、ともに将来は部屋を持ちたいという夢を持っている。不思議な縁が取り持つ両者は、後進の指導でも競い合っていることだろう。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

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