甲子園はそれほど清宮幸太郎を見たいのか すべてが規格外の「怪物」狂騒曲は続く
「大物感」こそ、最大の武器
清宮は、日に日に高まるメディア、ファンの関心にも動揺を見せず、その堂々とした振る舞いから「大物感」を漂わせる 【写真は共同】
「おっ、清宮だ! おぉ、清宮、清宮だよ!」
目の前の巨体に興奮を抑えきれなかったのか、少年は続けてこう叫んだ。
「北砂リトル、調布シニア〜!」
小学生に、経歴を正確に把握されている高校1年生など、今までいなかったに違いない。しかし、多くの人は、2012年のリトルリーグ世界選手権で特大の本塁打を放ち、米メディアから「和製ベーブルース」と呼ばれた怪童……という印象で止まっているのではないだろうか。
調布シニアでは、中学1年の冬に腰を疲労骨折した影響もあって、満足にプレーができない時期が長かった。リトルリーグでは通算130本を超える本塁打を放ったが、シニアでは通算20本も打っていない。主な実績は、腰痛が癒えた3年夏の林和男杯優勝くらいだ。
高校に入学して以来、日に日にメディアやファンの関心を集めていく状況。本人は驚いているに違いないが、その動揺を表に出さないのも、大物感の醸成を手伝っている。
この夏、清宮のグラウンドでの存在感に驚かされた野球ファンは多かったはずだ。ネクストバッターズサークルでは立ち上がり、右腕一本でバットを軽くスイング。いざ打席に向かう際は、右肩にバットを担いでのっし、のっしと悠然と歩いて向かう。「自分、1年なんで、よろしくお願いします」という小市民的なムードはない。高校3年生でも、こんな雰囲気を出せる選手は少ないだろう。
「打席に入ったら音が聞こえなくなります。これは昔からそうですね」(清宮)
父・克幸氏(ラグビートップリーグ・ヤマハ発動機ジュビロ監督)によって帝王学を叩き込まれた影響なのかもしれないが、教えられてできることではないような気もする。この「大物感」こそ、現時点で清宮の最大の武器だろう。
「豪快さ」よりも「うまさ」が目立った今夏
勝利を決めた2点を挙げたのは、清宮のバットだ。3回2死一、三塁の場面、フルカウントから外角のストレートを引っ張った。
「いいところにボールが来たので振りました。長打は狙っていません。来た球を打っただけで」(清宮)
バックネット裏でこのシーンを見ていて、最初は「右中間を抜けるだろう」と思ったライナーが、そのまま右中間フェンスを直撃したのに戦慄(せんりつ)した。「怪物」と呼ぶにふさわしい、衝撃の打球。だが、この夏に清宮が見せた打撃の中で「豪快」と感じられたのは、この打球だけだったのかもしれない。今夏はボールを前さばきでうまく拾うような「うまさ」が目立った。
西東京大会6試合で20打数10安打10打点、打率5割。1年生と考えれば十分すぎる成績だ。だが、観衆が期待するのは、1年春の都大会で見せたような、特大アーチだろう。清宮は高まる期待について、こう語っていた。
「期待に応えられなければ反響というか、いろんな声が返ってくると思います。良い結果を出すということがチームにとっても良い結果をもたらすことになるので、お客さんの期待に応えられるバッティングをしていきたいと思います」
すでに清宮に対しては、「下半身が使えていない」「フォロースルーが小さい」といった課題を指摘する声も聞こえてくる。高校1年生に対する注文にしては高度すぎるように感じるが、ここまでの清宮の言動を見る限り、雑音に自分を見失ったり、つぶされるということは考えにくい。
また、今後は故障のリスクとも向き合わなければならないだろう。シニア時代には腰を痛め、リトル時代には肩を何度も痛めている。今夏も試合前のキャッチボールでは50〜60メートルくらいの距離にもかかわらず、腕を軽く振って2バウンドで相手に届かせていた。試合中のここぞという場面では腕を振ってボールを投げていたが、おそらく完調ではないのだろう。そして松井秀喜が晩年膝痛に苦しめられたように、巨漢選手は膝にダメージがたまりやすい。そういったケアも今後の課題にしてほしい。
早実に風が吹いた決勝戦
決勝の試合後、「甲子園で暴れてきます」と話した清宮。「清宮フィーバー」はまだ始まったばかりだ 【写真は共同】
「甲子園は清原(和博/当時PL学園)のためにあるのか」は、植草貞夫・元朝日放送アナウンサーの名実況だが、今夏は「甲子園はそれほどまでに清宮を見たいのか」と言いたくなるくらい、早実に風が吹いていた。
「西東京大会では100パーセント発揮できませんでした。(父には)『甲子園で暴れてきます』と言います」(清宮)
高校野球100周年の今夏、どんな結果が待ち受けているのかはまるで読めないが、甲子園が「清宮フィーバー」に染まることは間違いない。