キヤノン・小野澤宏時が見据えるもの 37歳のラガーマンが語る、現状と未来

向風見也

南アフリカの強豪・ブルズを迎え撃つ

決定力のあるウイングとして、サントリー時代はチームの優勝に貢献した 【写真:アフロスポーツ】

 31日。町田市陸上競技場で、クラブは大一番を迎える。南アフリカのブルー・ブルズと激突するのである。相手は南半球最高峰であるスーパーラグビーのブルズの所属選手が軸となった、大きく力強いチーム。対峙する永友監督は「楽しみ。我々は日本一になったチームでもないですけど、勝ちにはこだわっていきたい」と意気込む。ちなみに有志の実行委員会の河辺康太郎事務局長は、小野澤の中大ラグビー部の1学年後輩である。

 小野澤は社会人2年目の01年、サントリーの一員としてウェールズ代表に45対41で勝利。直後に日本代表デビューを飾った。今度のブルー・ブルズ戦は復帰間もないため出場は難しいだろうが、記憶の地層を掘り返してこう展望する。

「若者にとっては、いい刺激になるんじゃないでしょうか。大きな目標設定にチャレンジして、世界の空気に触れられます。自分と世界の比較も明確にできる。僕もサントリーの2年目、ウェールズ代表とやった。当時は、割とシンプルなことしかを考えてなかったと思います。やるからには勝つし、持ったらトライを取るし、みたいな。楽しかったですし、代表に入るきっかけにもなった……。そういう意味でも、チャンスだと思います」

トライを取るだけではないチームへの貢献

 一方、小野澤にとって本番は秋以降だ。ラグビー人生25年目のシーズンを迎えるプロ選手は、いま、カスタムバイクの乗車は自重している。「運動のボリュームをコントロールしたい」というクラブの意向を尊重してのことだ。

「落車が怖い、ということもあって。『練習もやるし、いいでしょ』みたいな若さはない。もし何かあったら洒落にならないなぁと、いまは、言うことを聞いています」

 小野澤のすごみは、「うなぎステップ」を繰り出す前の動きにもある。グラウンド後方、タッチライン際に立つウイングというポジションから、仲間が円滑に動けるよう明確な指示を出す。チーム戦術と相手守備網の穴場を踏まえ、好角度から球を受け取る……。「ザワさんがいると、後ろから声が聞こえてやりやすい」は、サントリーやジャパンの同僚の決まり文句だった。

「いままでで一番、いい状態で過ごす」

 トップリーグの順位を11位、7位、7位とする新興チームのキヤノンには、新主将の橋野皓介(27歳)、前主将の和田拓(26歳)、現日本代表の宇佐美和彦(23歳)と主軸組に若手が多い。グラウンド内外における自称「おじさんウイング」の役割は、決して小さくないのだ。

「例えばメンバー編成の過程で外されて、『何だよ』と落ち込む。その選手は、試合に出たいからそこまで沈むのであって。キヤノンの選手にはそういう熱量がある。これは周りの選手の関わり次第でよくも、悪くもできる。熱量は、方向性を決めてあげたらすごい爆発力になる。しっかりベクトルを決めて、いい練習をして……個性の色を消さずに、チームという袋に入れていきたい。そう思って過ごしています」

 復帰後初めて身体をぶつける練習をしたら、「怖いっすね」。ただ、声は明るい。

「もうリハビリレベルではなくなった。(練習が)できたという経験を重ねて、怖さを取っていく作業をする段階までは来たかな、と。去年はテープで固定して、ここ(肩)が触れない。痛い。練習後は『あぁ、きょうは無事に終わった……』。ただ今年は『まだ怖さはあるけど、何とか、よさそう』。その気持ちの差はすごく、大きい」

 個人目標は「いままでで一番、いい状態で過ごす」である。

「毎日いい準備をして、いい競争して、いいコミュニケーションを取って、チームにプラスになるものを全て提供して、若手も成長して……。で、自分が出る、みたいな」

 若さ、年輪、勢い、思慮深さ。たくさんの色彩がひとつに折り重なった集団のたのしさを、考えるシニアプレイヤーは深いところでわかっている。

南アフリカの強豪が来日!キヤノンと31日に激突

【町田 ワールドマッチラグビー 実行委員会】

 7月31日(金)に南アフリカの強豪、ブルー・ブルズが、日本のトップリーグ所属、キヤノンと対戦する。
 スーパーラグビーで優勝経験もあるブルズのほとんどは、ブルー・ブルズの選手であり、南アフリカ代表にも多くの選手を輩出している。この強豪に対して、キヤノンはどのように戦うのか? 注目の一戦は31日19時5分から、町田市立陸上競技場で行われる。

[対戦カード]キヤノンvs.ブルー・ブルズ
[日時]7月31日(金)19時5分キックオフ予定
[試合会場]町田市立陸上競技場

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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