午前中は会社で仕事をして寮に戻り、午後からＮＴＴ西日本・淀グラウンドで練習する毎日だ。寮とグラウンド間の片道７キロは、行きも帰りも走って移動する。堀越は地面の盛り上がりなどが見えにくく、車通りが多い道も通るため、チームメートが一緒に走ってくれるという。

　歴史も実績もあるチームの練習はハードだ。入社当時はついていくことさえできず、今でも長距離走ではチームメートと同じメニューに取り組んでも、最後には数十秒の差がついてしまうことがある。学生時代にやってきたことが正しかった部分もあるが、間違いが多いことにも気づき、大きな衝撃を受けた。だが、仕事にも陸上にも集中できる環境、質の高い練習、そしてずっと個人で走ってきた堀越にとって、周りに仲間がいるということが何より力になった。

「気持ちと体を目標に向けて上げていくところは、僕はまだつかみきれていないので、本番にピークを合わせるチームメートには刺激を受けます。国内トップクラスの彼らと一緒に走るうえでは自分にとってのメリットばかりですし、実力差はまだまだありますが、たとえば集団につく練習で自分が前の方を走ったり、ぎりぎり食らいついていく姿を見てもらうことで、他の選手に良い影響があったらいいなと思っています」

　入社後、一般の大会にも出場し、選手として一皮も二皮も向けた堀越は、ロンドンパラリンピック日本代表として５０００メートルで５位入賞、昨年の仁川アジアパラ競技大会（韓国）では１５００メートルと５０００メートルで金メダル獲得という成績を収めてきた。

　自分の走りが進化していると実感する一方で、世界の競技レベルが向上していることも肌で感じている。
「同じクラスでモロッコの（シェントゥフ）エルアミン選手は、ロンドンパラリンピックの５０００メートルを１３分５３秒７６という世界記録で優勝していています。うちのチームのトップ選手が１３分台で走るので、つまり僕はうちの選手と同じ練習ができないと、まず世界では戦えないということ。もっと頑張らなきゃいけないです」。
　その言葉に力がこもる。

　堀越にとって、３度目のパラリンピックとなる来年のリオは、これまでとはまた違う、特別な大会になりそうだ。今年４月、ＩＰＣマラソン世界選手権を兼ねたロンドンマラソンで、堀越は銅メダルを獲得（注：この結果、堀越は日本盲人マラソン協会設定のリオパラリンピック推薦基準をクリア。日本パラリンピック委員会が派遣枠を確定した時点での推薦候補第１位に内定）。実は、昨年１２月の防府読売マラソンでフルマラソンデビューをしたばかり。そのわずか４カ月後、２度目のフルマラソン挑戦で、リオにつながる結果を出したのだ。

　パラリンピックのマラソンという新たな扉の前に立った堀越。その先は未知の世界だが、経験豊富なチームメートと合宿を重ね、さらなる高みをめざしていくつもりだ。

　仲間とともに、前へ――。堀越のリオへの挑戦が始まる。