ワールドGPで見えたW杯への伸びしろ 新戦力の台頭と存在感を示したMB

田中夕子

木村沙織「代表として恥ずかしい試合」

ワールドGPの中国戦では力の差を見せられ完敗。キャプテンの木村(3番)は危機感を募らせた 【坂本清】

 圧倒的な「個」の力を前に、なすすべがない。

 全日本女子にとって、今季の国内初戦となったワールドグランプリ(GP)さいたま大会、最終日の中国戦は1セットを取ったものの、完敗に近い内容。8月に開幕するワールドカップ(W杯)でピークに持って行くための試金石と言うべき大会であり、さまざまなパターンを試行錯誤している状態だった。とはいえ、それは日本に限ったことではなく、主力選手をけがで欠き、朗平監督が「まだ主力と呼べる選手は誰もいない」と言う中国も同様。

 勝敗よりも内容が大事な時期である。だが、世界ランク3位(2014年10月付の最新ランキング)の相手に見せつけられた力の差。試合後、主将の木村沙織(東レ)は「日本代表として恥ずかしい試合をしてしまった」とうなだれた。

 リオデジャネイロ五輪では金メダル獲得を目標とし、昨年、そのための第一歩としてメダル獲得を目指した世界選手権は7位と沈んだ。その経験を糧とし、今季はコーチ陣の分担も入れ替え、新戦力も積極起用するなど、来夏に向け、リスタートの年でもある。

 金メダル獲得のために何が必要か。どんなバレーをすべきか。模索を続ける中、眞鍋政義監督が現在のチームに掲げたのは「鉄壁のディフェンス」と「スピード」。中国戦を見ても分かるように、身長で劣る日本が、身体能力で勝る相手に対するには、「サーブレシーブやディグ(スパイクレシーブ)、ディフェンス面で上回らなければ厳しい」と眞鍋監督は言う。ロンドン五輪に向けたチームもサーブ、サーブレシーブ、ディグ、ミスによる失点をなくすというのがチームの柱であり、目指す方向性は変わらない。だが、高さやパワーといった身体能力に加え、ブラジル、中国、米国といった世界の強豪は細かな技術の進化も目覚ましい。

課題が出たサーブレシーブと速い攻撃

中国戦第1セットのメンバー。サーブでポジション2の木村を狙われ、主導権を握られた 【スポーツナビ】

 今季、初代表となったセッターの古藤千鶴(久光製薬)も、さいたま大会でのイタリア、中国との対戦を通して改めて世界との差を痛感した1人だ。

「いいパスが入って、思い通りの攻撃を組まれると(日本は)何もできない。今の自分たちの技術、精神力では世界に勝てないというのを実感しました」

 当然ながら対戦国は、日本のディフェンスを崩そうとサーブで攻めてくる。特にターゲットとされるのがポジション2、セッターの隣に入り攻守の要となる木村だ。イタリア、中国戦では試合を通して常にサーブで狙われ、プレッシャーをかけられ続けた。

 中でも眞鍋監督が「スピード、落差のあるサーブがとにかくすごかった」と称するように、高い打点から放たれ、速さと威力があり、なおかつターゲットの直前で落ちる中国のサーブに苦しめられた。2枚ブロック、3枚ブロックの上から放たれるスパイクに対しては「今のは仕方ない」と割り切ることもできるのだが、ディフェンス面で崩れてはいけないというプレッシャー、セッターにパスを正確に返さなければ日本の攻撃が展開できないというプレッシャーがさらなる悪循環を招き、サーブレシーブの修正がなかなかできず、常に主導権を握られる結果となった。

 ディフェンス面とともに、もう1つの柱であるのがスピード面でも課題が目立つ。レフト、ライト、両サイドに対してトスのスピードを1秒以内に設定し、相手ブロックが完成する前に攻撃を仕掛ける。それが日本の目指すバレーなのだが、速さを気にするあまり、トスの軌道が低くなり、スパイカーのヒットポイントも限られる。加えて、日本の速さに相手のブロックも対応していて、中央から移動するシステムではなく、最初からややサイドに寄って待ち構えている。いくらトスのスピードが速くなろうと、1枚、ないしは2枚がきれいにそろったブロックに対し、スピードのあるトスを打ち分けるのは非常に難しく、被ブロックによる失点も目立つ形となった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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