ワールドGPで見えたW杯への伸びしろ 新戦力の台頭と存在感を示したMB

田中夕子

鮮烈な印象を残した古賀と宮部

シニアデビューを果たした16歳の宮部。高さとパワーを武器に鮮烈な印象を残した 【坂本清】

 最終日の中国戦のダメージがやや大きかったこともあり、課題ばかりが先行しがちになるが、決してマイナス面ばかりではない。まず大きな収穫として挙げられるのが、宮部藍梨(金蘭会高)、古賀紗理那(NEC)といった新戦力の台頭だろう。

 スピードを重視する攻撃陣の中で、武器である高さとパワーを生かすために、宮部に対してはトスが高く設定されていたこともあり、イタリア戦がシニアのデビュー戦となった宮部の攻撃力は大きな武器となった。ラリー中の動きや、攻守の切り替え時のバタつきなど、不慣れゆえのミスもあったが、抜群の跳躍力を生かして繰り出されるスパイクに眞鍋監督も「想像以上だった」と及第点を与えた。

 宮部だけでなく、高校時代から全日本候補選手として選出され、今季が公式戦での本格的な全日本シニアデビューとなった古賀も攻守において、チームの主軸というべき存在感を示した。サーブレシーブやパスの処理能力に加え、光るのは多彩な攻撃力。相手の高いブロックに対してストレートに打ち、ブロッカーの右手に当ててポイントを奪ったかと思えば、次はクロスに打って、ミドルブロッカーの左手に当てて弾き飛ばす。眞鍋監督が「間違いなく相手のブロックが空中で見えている」と言うように、ディフェンスの隙間をうまく狙ったスパイクも織り交ぜ、3戦を通して高い決定率、効果率を残した。

 これまでは全日本でも最年少で、「まだ決められる自信がないので、できるだけトスを持ってきてほしくない」と冗談交じりで謙遜することが多かったが、試合出場の経験を重ね、手にした自信が古賀に変化を生み出した、とセッターの宮下遥(岡山)が明かす。

「コンビが合うか、私自身が不安だったけれど、崩れた二段トスも全部打ってくれたので(イタリア戦は)最後まで持ちこたえられた。(自分よりも)年下で、私が引っ張らなければいけないのに、試合の終盤になってからは紗理那が『私に上げて下さい』と言ってくれたので、迷わず上げることができた。紗理那に引っ張られたし、いいところで決めてくれた。セッターとして、本当に助けられました」

 来夏のリオ五輪、さらには20年の東京五輪での活躍が期待される2人だが、間近に迫るW杯でもチームの大きな戦力と成り得る存在として、日本だけでなく、中国の朗平監督からも「2人の素晴らしい新戦力が現れた」と称賛されたように、シニアデビューは強烈な印象を残した。

存在感を発揮したMBたち

今大会では大竹(21番)らMBたちが存在感を発揮したことも大きな収穫となった 【坂本清】

 さらにもう1つ。昨年までと比べ、ポジション3と5に入るミドルブロッカー(MB)の攻撃回数が増えたことも、長年「MBの攻撃力不足」が課題とされてきた全日本女子にとっては明るい要素だ。具体的に1試合で何本と打数が設定されているわけではないが、1試合の中で少なくとも全体打数の3割、できれば4割をミドルが占める意識で臨んでいると大竹里歩(デンソー)は言う。

「(昨年とは異なり)サイドはサイド、ミドルはミドルという形で練習を積んできている。その中で『もっとミドルが絡んでいけ』と言われているので、ラリー中、Bパスからの攻撃とか、崩れたところでも打つという意識は高くなりました。セッターも積極的にミドルを使ってくれるので、もっと攻撃の種類を増やして点が取れる選手になりたいし、ならなきゃいけない。そうじゃないと、残れない場所だと思うので」

 大竹だけでなく、スピードと多彩な技を持つ山口舞(岡山)、ウィングスパイカーとしての経験もあり、さまざまなポジションから攻撃展開できる島村春世(NEC)も活躍している。さいたま大会の3戦、イタリア戦では島村が16点、山口が14点、ドミニカ共和国戦では大竹が14点と持ち味の異なる3人のMBが存在感を発揮した。

 攻撃面において、ただスピードを高めるだけでなく、常にバックアタックを含めた4枚が同時に入ることで、相手ブロックの的を絞らせず、数的優位の状況をつくることが日本の目指すスタイルでもある。これまではどうしてもサイドにトスが偏りがちだった展開を打破するためにも、中央から攻撃を展開する選手の存在は不可欠なもの。眞鍋監督も「12年以降、ミドルで得点することができなかったが(さいたま大会では)しっかり点を取ってくれた」と高い評価を与えたことも、今後に向けた明るい兆しであるのは間違いない。

限られた時間で何を生み出すか

W杯まで約1カ月、眞鍋監督はどう修正してくるのか 【坂本清】

 W杯で2位以内に入り、リオ五輪の出場権を獲得する。そして、五輪では金メダル獲得を目標とする全日本にとって、得られた収穫以上に課題が残る大会になったのは否めない。

 だが裏を返せば、課題の多さはそれだけ伸びしろと成り得る部分でもあり、これからにつながる可能性も秘めている。ワールドGPさいたま大会で通用したこと、通用しなかったことと改めて向き合い、再考すべき部分は再考する。W杯の開幕まで時間は限られているが、その限られた時間で何を生み出すか。それこそが、目標達成に向けた真価となるはずだ。

 W杯は8月22日に開幕する。その時、どんな全日本が見られるのか。この苦い経験も糧として、逞しさを備えた、強いチームになってほしいと願うばかりだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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