史上初のユニバ金も悔し涙を流した背景 「世界で勝つ」に挑んだ大学侍Jの3年

高木遊

国際経験を積ませ、隙のない野球を展開

国際経験を積んだ選手たちは、「海外で勝つための野球」を身につけ、4試合、35得点、無失点、無失策という圧倒的な成績を収めた 【写真は共同】

 3年連続の選出となったのは、坂本と吉田だけではあるが、さらに11人が日米大学野球(13年7月、日本)もしくはハーレム国際大会(14年7月、オランダ)のいずれかに出場し、海外の選手のスピードやパワーを体感していた。

 そのため、投手では「海外チームには縦の変化球が有効」と早くから分析し、内野では昨年のハーレム国際大会で天然芝を経験していた柴田竜拓(国学院大)、北村祥治(亜細亜大)、茂木栄五郎(早稲田大)が、激しい雨の中で行われた試合でも落ち着いた守備を見せ、投手陣を支えた。
 全4試合に遊撃手として出場した柴田は「天然芝ではどうしても土と芝の境目が気になってしまうのですが、それを気にしすぎず、イレギュラーも当たり前という意識でプレーしていました」と、昨年の経験をフィードバックできたと笑顔で話した。

 走塁面でもチームとして徹底してきた全力疾走と次の塁を狙う姿勢で、善波監督が「一歩間違えれば結果は逆になっていたかもしれない」と話す予選リーグの韓国戦や、準決勝の米国戦で相手守備陣のミスを誘発した。

 終わってみれば4試合、35得点、無失点、無失策という圧勝劇ではあったが、選手村では毎朝、毎晩、素振りやトレーニングを行う選手が多くおり、「こちらから何も言わずとも、自然とそうした雰囲気が醸成されていた」と善波監督は目を細めた。

決勝トーナメントから逆算した選手起用

 ワールドカップを4連覇している女子代表を除くと、指揮官や選手構成は違えど、近年の日本代表は予選リーグで好結果を残しながらも、決勝トーナメントで敗れる結果が続いてきた。だが今回、善波監督は決勝から逆算した選手起用を行い、万全の体勢で決勝戦を迎えていた。

 野手では選手全員を使い適度な緊張感と休養を与え、投手も全選手を使いながらエースの田中正義(創価大)を「金メダルへの近道」と、予選リーグ1イニングのみに温存し、決勝戦に照準を合わせた。

 また、データ収集のための偵察スタッフを全日本大学野球連盟に要請し、かつて代表コーチを歴任した谷口英規(上武大監督)と鳥山泰孝(国学院大監督)が現地入りし、対戦国のデータを収集。決勝で対戦するはずだった台湾も丸裸にしていた。

 対する台湾も、郭李建夫監督(元阪神)は「そんなに先のことは考えていないよ」とはぐらかしてはいたが、準決勝の先発に予選リーグでは登板のなかった宋家豪を起用。最速150キロを記録したストレートに、スライダーやスプリットなどを駆使し、韓国打線を6回途中まで無失点に抑える好投を見せた。その快投ぶりには渡韓していた日本のプロ球団スカウトたちが身を乗り出すほどだった。
 また、かつては日本の専売特許のようだった「足を絡め、積極的に次の塁を狙う野球」というのも、台湾はヒットエンドランなどを多く用いて、持ち前のパワーだけではないスピード野球を展開。余念のない試合前の準備も、「僕らがやっていた時代では考えられなかった」と、アマチュア時代に台湾と対戦歴もあるスカウトも驚いていた。

 だからこそ、雌雄を決する決勝戦が中止されたのは残念でならないが、今後の代表強化や世界で勝つための野球を、善波監督が描き、それを選手たちが実行しきったことは、金メダルという結果以上に称賛されるべきものであるはずだ。

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著者プロフィール

1988年、東京都生まれ。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。関東を中心に全国各地の大学野球を精力的に取材。中学、高校、社会人などアマチュア野球全般やラグビーなども取材領域とする。

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