日米の選手が見せた努力を分かち合う姿 連覇ならずもなでしこが示したW杯の価値
ざわつく予感が的中
日本は序盤の失点が響き2−5で米国女子に敗れる。W杯連覇を達成できず、肩を落とす選手たち 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
「米国の(カルリ・)ロイド選手が下がって行ったので、これは何かがあると思いました」
米国の最初のCK。佐々木監督は、守るなでしこジャパンの選手たちに注意を促そうとした。だがその声は、5万3341人の歓声にかき消されて届かない。ベンチからゴール前までほんの数十メートルの距離が、太平洋を隔てた東京とバンクーバーほどに感じられた。
ざわつく予感は的中した。キッカーのメガン・ラピノーが低くて速いボールを蹴り込むと、ゴール正面に立つ岩清水梓の目の前に飛んできた。前もってロイドの位置を把握し、自分との距離がかなり離れていたことを確認していた岩清水は冷静にクリアを試みたが、ロイドは予想以上の速度で岩清水とボールの間に足を突き刺した。
FIFA女子ワールドカップ(W杯)カナダ2015の決勝戦、米国女子代表対なでしこジャパンの試合は、開始3分でいきなりスコアが動いた。「先制点がポイントになると思う」と、宮間あやは事前に語っていた。なでしこジャパンは今大会、準決勝まですべての試合で先制点を挙げているが、決勝で初めてそのパターンが崩れた。会場となったBCプレイス・スタジアムは、屋根を突き破るかのような驚きと歓喜の声に包まれた。
落ち着く前に4失点
前半16分にハットトリックを達成したロイド(10番) 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】
宮間キャプテンは、この2本のセットプレーを、「向こうがこちらのことを研究していたのかなと思います。どのチームもやってこなかったことをやってきたなという感じ」と率直に認める。「あのゾーンにボールを入れられた時の対応の仕方は、もっとセットプレーの練習をしていたら違っていたかもしれません」。対する米国代表ジリアン・エリス監督は、「最初の2つのセットプレーでは同じゾーンを狙っていた。岩清水を狙ったわけではない」と、試合後に打ち明けた。
なでしこジャパンには、米国に対してボールを保持することで戦いの主導権を握りたかった。ところがボールを持ち始めた時には、すでにスコアは0−2になっていた。続いて14分にはローレン・ホリデーのボレーが決まり0−3。なでしこはピッチ上で円陣を組み、「1点ずつ返そう」と、なんとか気持ちを現実につなぎ止めようと努力したが、直後にロイドの約50メートルロングシュートが海堀あゆみの頭上を超え、さらに追いつめられた。
思わぬ形で訪れた澤の「W杯最後の試合」
前半のうちに交代で出場した澤(左)。思わぬ形で「W杯最後の試合」が訪れた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
だとすれば、なでしこが立て続けに4失点を食らった2015年の決勝戦も、「これがサッカーだ」と受け入れなくてはならない。なでしこと米国、幸運と不運が、4年前とはまるっきり入れ替わっている。0−4。米国の猛攻はピッチ上に巻き起こるハリケーンとなり、連覇を見届けようとする日本人の希望を一瞬にしてなぎ倒していった。
特に、3失点に絡んでしまった岩清水が平静を保つのは、本人にどれだけ気力があろうと難しかっただろう。佐々木監督はそう察し、大儀見優季のシュートで1−4とした後の33分に、早々と交代を指示した。代わって入るのは澤穂希だ。「W杯最後の試合」と公言したゲームで、こんな形で出番が回ってくるとは、本人も想像していなかっただろう。
米国が勢いを落ち着かせたこともあるが、その後なでしこはペースを取り戻す。相手サイドバックの外側に起点を作り、徐々に攻略の糸口をつかみはじめたところで、前半終了の笛が鳴った。