伝説の菊花賞馬となるまで――トーホウジャッカルここまでの歩みを聞く

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精神的な部分でもギリギリだった

“伝説”となった菊花賞、その後は疲れを取るために春まで休養となったのだが…… 【netkeiba.com】

 菊花賞後は早い段階で有馬記念の回避を表明。年内は休養に充てることになった。

「菊花賞が終わってから思ったのは、精神的な部分でもギリギリだったのかな、と。菊花賞のゲートの中でガサガサって暴れたんです。今までに見せたことがない素振りでした。苦しかったというか、競馬というのをだいぶ覚えてきて『今から競馬なんだ』っていうのがあったのかな。疲れている感じは見せなかったけど、目に見えない疲れは蓄積していたはずです。短期間でGIまで勝った馬。有馬記念まで走るより、次の年のことを考えて大事にしてあげた方がいいだろうという厩舎の考えだったと思います」

 年が明け、帰厩したトーホウジャッカルは阪神大賞典へ向けて2月から順調に乗り込まれていった。しかし、3月18日の最終追い切りで右前脚の蹄を打撲。阪神大賞典も回避となった。

「このレースから天皇賞・春を目標にということだったんですが、残念でした。ぶつけた蹄の中に血豆ができたんですが、それが治るのに予想以上に時間がかかってしまって、目標だった天皇賞・春も回避することになりました。放牧には出ず、ずっと厩舎にいたので脚の状態を聞いたり、様子を見に行っていました。順調にいってほしかったけど、元々試練の多い馬だったので、ジャッカルらしいなというのはありました。ただ、当初のプランが白紙になって、どこから始動できるんだろうってもどかしさはありましたね」

 トーホウジャッカルが生を受けたのは、東日本大震災当日。2歳時には重い腸炎を患い、競走馬になれるかどうか危ぶまれた時期もあった。しかし、それらを乗り越えて菊花賞馬になったように、今春のアクシデントも乗り越えた。

「蹄の状態が良くなって、鳴尾記念を使うという話も出てきました。でも、それだと急仕上げで臨まないといけませんでした。オーナーや先生と相談して、『しっかり仕上げて宝塚記念一本でいこう』となりました。それが決まったのが鳴尾記念の2週間くらい前。目標の宝塚記念まで期間があったので、追い切りのペースもしっかり考えながらここまでやってこれました」

中途半端な状態では出たくない

宝塚記念へ、不安は一切ない 【netkeiba.com】

 初めての休養やアクシデントを経て、トーホウジャッカルの状態はどう変わったのだろうか。

「年明けに帰ってきて、ほぼ毎日乗っていたんですが、休んだ分ふっくらして戻ってきました。初めての休養だったっていうのもあるのかな、気持ちがなかなか乗ってきませんでした。当時は6〜7割のデキだったんじゃないかな、と。まだスイッチが入りきっていなかったけど、天皇賞・春を目指す上で阪神大賞典がきっかけとなるレースになればと思っていました。
 その後、蹄を傷めて休んでいた間は運動ができなかったので、正直しぼんでしまったなという感じはありました。でも、最近の追い切りの感触からすれば、阪神大賞典を目指していた頃よりも気持ちは入ってきています。しっかりと負荷をかけながら追い切りをできているかなと思いますね」

 キャリアはまだ7戦。しかし、「どのコースでも器用にこなすだろう」と鞍上は自信を覗かせる。

「だって、菊花賞のあのコースをこなすんですから。淀の3000mは、向正面でスタートしてから3コーナーまでの距離が短い。そこでしっかりとポジションを取りにいかないといけないけど、コーナーに入ると下り坂。勢いがついた状態だから、引っ掛かりやすくなるけど、ジャッカルはしっかりとクリアできました。それだけの対応力はあると思います」

 菊花賞馬ではあるが、半姉のトーホウアマポーラ(父フジキセキ)は1200mの重賞・CBC賞の勝ち馬。週末の仁川は雨予報。しかし、距離も馬場状態も含め「不安は一切ありません」と、相棒を信じる言葉が返ってきた。

「先週は函館にいて、1週前追い切りには騎乗できなかったけど、代わりに調教をつけた藤懸(騎手)には、僕から電話をして状態を確認しました。ファンのみなさんもジャッカルの復帰を心待ちにしてくださっていると思うので、なんとかその期待に応えるためにも、中途半端な状態ではレースに出たくないですね。最終追い切りまでしっかりと考えながら乗らなきゃと思っています」

 トーホウジャッカルは、まだデビューから1年余り。しかし、この馬のことを知り尽くし、将来性を見込んで一戦一戦大切に育ててきた酒井学騎手との間には深い絆がある。8か月のブランクを乗り越え、ふたたび伝説は生まれるか。(了)

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