伝説の菊花賞馬となるまで――トーホウジャッカルここまでの歩みを聞く

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“伝説の菊花賞馬”となったトーホウジャッカル、主戦の酒井学にデビューからここまでの歩みを聞いた 【netkeiba.com】

 菊花賞をデビューから史上最速149日で優勝。なおかつレコードタイムを大幅に更新しての勝利だったトーホウジャッカル。伝説を作った菊花賞馬が、ついに待望の復帰戦を宝塚記念で迎える。主戦を務める酒井学騎手に、トーホウジャッカルの強さの秘密と、天皇賞・春を回避した今春の状況を伺った。(取材・文:大恵陽子、写真:榎田ルミ、井内利彰、編集部)

ダービー前日の遅いデビュー

「デビュー戦でビビッときた」と振り返る酒井 【netkeiba.com】

「デビュー戦で、ビビッときたんです」

 主戦を務める酒井学騎手(2戦目のみ函館SS騎乗のため幸英明騎手)は、トーホウジャッカルの印象をそう語った。

「初戦はスタートが全然出なくて、最後の直線しか競馬をしていません。追走に戸惑って最後だけ脚を伸ばす、というのはよくあることなんですが、この時の感触が他の馬にはないものを感じたんです。10着だったけど、秘めたものを持っているなと」

 そのデビュー戦は5月31日。日本ダービー前日の3歳未勝利戦(京都・芝1800m)だった。最後方からの競馬となったが、上がり3Fは最速タイをマークした。2戦目はダートで9着。続く3戦目、再び芝に戻るとマイル戦で接戦の末、初勝利をものにした。7月12日の中京競馬場だった。

 さらに続く3歳以上500万下(8月3日・小倉・芝1800m)は先行し、直線で前の3頭が壁になる場面がありながらも、抜け出し勝利。春のクラシックを戦ったライバルの多くは、休養に入っている頃だった。

「(谷潔)先生も僕も『まさか2連勝するとは』と驚きました。ポテンシャルの高さは感じていましたが、デビューが遅かった分、他の馬と経験値が違います。キャリア豊富な馬を相手に勝てるのは、もう少し段階を重ねてからかな、と思っていました。でも、成長力がこちらが思っている数倍持っていましたね」

 一戦ごとに、主戦は相棒の成長を感じていた。

「初勝利の時は、一回交わされたのを差し返して勝ったんです。2勝目は、抜け出し方が器用な子だな、と。派手にちぎって勝つわけではないけど、毎回レースの度に『やっぱりすごい馬だな』って上積みの大きさを感じました。馬込みも全然怖がらないし、器用さに長けています」

クラシック最終戦へつないだ神戸新聞杯

神戸新聞杯でトーホウジャッカル(右・白帽)は酒井が思っていた以上のポテンシャルを発揮して3着に食い込んだ 【netkeiba.com】

 その後、1000万下特別・玄海特別(9月6日・小倉・芝2000m)は2着に惜敗。縦長の展開の中、これまでよりやや後ろの位置取りとなる中団から進んだ。このレースは、トーホウジャッカルにとって大きな意味を持ったレースだった。

「もちろん勝ちにいく前提で、ですが、先々のことを考えてちょっと違う競馬をしたんです。毎回、勝つためにこれまでのような先行抜け出しっていう競馬をしていると、どうしても競馬の幅がなくなってしまいます。仮に中団や後方から競馬をして差し切れなかったら『やっぱり前々で競馬をした方がいいやん』って、型にはまってしまう可能性がある。そこで、このレースでは目標にする馬を決めて、それを目標にどんな競馬になるかということをしたんです。
 ところがこの時は、目標にした馬が思いの外進んで行かなくて。だから、2000mだけど向正面からは自分の競馬をさせました。2着に負けてしまったけど、得るものが大きかったですね」

 そして迎えた神戸新聞杯。手応えは感じていたのだろうか。

「この段階では、さすがに『ここで権利を取って菊花賞にいこう!』という感じは、僕の中にはありませんでした。2000mの前走で行きたがる感じがあったし、2着だったので距離も1800mがベストなのかなって思っていたのが正直なところです。でも、このタイミングで重賞レースに出られるのは今後のいい経験になるだろうと思っていました」

 マイルでの初勝利から徐々に距離を延長し、臨んだ2400mの神戸新聞杯。

「折り合いに重点を置きました。最初のコーナーまではグッとくる感じがあって『大丈夫かな?』って思っていたんですが、その後スッと折り合ってくれて。『大した馬だな』って、もうそこで納得した部分がありました。でも、色んな不利もあったけど、レースが進むにつれて『あれ! もしや?』という思いが湧いてきたんです。直線に向くと、グッともう一回手応えがありました。こちらが思っている以上のポテンシャルがあると感じました」

 3着。自らの手でクラシック最終戦への切符を掴み取った。

「神戸新聞杯で上位と力差はないと感じました。自分さえちゃんと乗れば、正直チャンスだなって。神戸新聞杯は悔しいレースでしたが、勝たなくてよかったですね。そしたら自分自身がもっと緊張していたと思うので」

 第75回菊花賞。

 秋の傾きかけた日射しに尾花栗毛の馬体が照らし出された。3000mの長丁場を内ラチ沿いでしっかりと折り合い、直線はわずかに外に持ち出すとスルスルと伸びて優勝。デビューから149日での菊花賞制覇は史上最速。3分1秒0のレコードタイムでの優勝でもあった。ここに、伝説が生まれた。

「すべてが噛み合い、上手くいったレースでしたね」

 自らも伝説の立役者となったレースをそう振り返った。

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