ゴールへの感覚を研ぎ澄ます大儀見優季 決勝トーナメントで活躍が期待できる理由

小澤一郎

チームの重心が低く、前線が孤立

ゴールへの感覚を日々研ぎ澄ましている。一発勝負の決勝トーナメント以降は大仕事をやってのけるはずだ 【Getty Images】

 GL1点止まりに終わったもう一つの理由は、3試合を通してチームの重心(ボールを持つ位置)が低い点にある。それによって前線が孤立気味となり、FWへの配球の大半がロングボールとなっている。後半に押し込まれる展開が続いたスイスとの初戦(1−0)後、佐々木則夫監督は「ちょっと急ぎすぎ、シンプルすぎた。持ち前のボールを動かしてというところができなかった」と苦しい展開となった要因を分析したが、実力的にはかなりの差があったはずのエクアドル戦(1−0)でも、チームの重心やロングボール中心のビルドアップは変わらなかった。

 加えて、エクアドル戦では佐々木監督がボールを落ち着いて回すために2トップを縦関係にして、大儀見にゲームメークの役割を与えた。これによって確かに攻撃の形や前線での起点は作れるようになったが、その分決定機で大儀見がフィニッシュに絡むことができなくなった。できれば大儀見にフィニッシャーとしての仕事を専念させたいところで、その方が相手にとっての脅威が増すことも佐々木監督は承知している。しかし、第3戦で下された一つの決断から見ても、今のなでしこのチーム状態、中盤の組み立てにおいては大儀見のゲームメーク能力、ポストワークが必要だということだ。

 前回大会では自身が望むプレーとチームから求められる役割のギャップに悩み、精神的コンディションを崩した大儀見だったが、今はそれに似た状況に直面していながら楽しむ余裕さえ見せている。彼女が前回大会以降、心がけてきたプレーは「自分がしたいプレーではなく、チームの中で自分がすべきプレー」であり、エクアドル戦直後から「中盤に下りてゲームメークする力を発揮しながらも、前にどれだけ関われるかというのを決勝トーナメントのテーマにしてやってきたい」と前向きなコメントを残している。

 佐々木監督がGL終了後に「われわれが今後の決勝トーナメントでイニシアチブを取れる試合というのはそう多くないんじゃないか」と話しているように、重心の低い守備的とも取れる戦い方が、決勝トーナメントに入って劇的に変わることはないだろう。だからこそ、大儀見はシュート本数や得点数ではなく、勝負を決めるゴールとそのプロセスに集中している。日々研ぎ澄ました状態における感度を高めている大儀見を見る限り、一発勝負の決勝トーナメントの戦いでは、間違いなく今のチームの中で自分がすべきプレーと大仕事をやってのけるはずだ。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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