Aロッドを変えた“空白の1年” 全米の注目を集め続ける球界最大の悪役
チーム内で増す存在感
守り慣れた三塁だけではなく、今季はDH、一塁など複数ポジションをこなしている 【Getty Images】
全米から“嘘つき”とののしられ、どん底まで落ちて開き直れたのか。1年もプレーできなかったことで、ベースボールの大切さに気付いたのか。答えはどうあれ、現在25勝22敗でア・リーグ東地区の首位に立つヤンキースにとって、復活したAロッドが貴重な存在になっていることに疑問の余地はない。
もちろん、この好調が続くとは限らない。誰も予想できなかった打棒復活を見て、再びの薬物使用を疑う人が出てきても無理はない。また、上記のスカウトの指摘通り、ケガやスランプの可能性は常にある。
大記録達成、球宴ではどのように扱われるか……
通算本塁打でメイズを上回っても、通算打点でゲーリックを抜いても、ロドリゲスの記録に関してヤンキースはほぼ無視の姿勢を貫いてきた。過去数年にデレク・ジーターやマリアーノ・リベラが大記録達成に迫った際には種々のイベントが用意されたが、Aロッドのマイルストーンはすべてゲーム当日の資料に小さくメモ書きされているだけ。薬物使用ゆえに真価に疑問符がつく記録を祝福するべきではないというチーム側の考えは、まずは適切に思える。あと19本に迫った3000本安打を本拠地で達成しても、派手なセレモニーは行われまい。
しかし、このまま打ち続け、今夏のオールスターに選ばれてしまった場合には? 冒頭で述べた通りにファン投票での選出は難しいが、リーグ5位の本塁打数を残しているのだから、他のかたちによる出場は考えられる。そうなればヤンキースもロドリゲスをチームの看板として扱い、盛大にたたえざるを得なくなる。
そして、13年オフにAロッドに前代未聞の1年間の出場停止処分を言い渡したMLBは、さらに居心地の悪い思いを経験することになるのだろう。
地元では歓声を受けても、アウェーでは依然として巨大なブーイングを浴びる球界最大のヒール(悪役)。そんな選手を、再び英雄の1人として祝福しなければならない。オールスターの会場となるシンシナティでは、地元レッズ出身のピート・ローズとロドリゲスの一挙一動に視線が注がれるはずで、“夢の球宴”はまるでサーカスのような舞台に変貌してしまうに違いない。
結局、年齢を重ねても、不用意なコメントを残さなくなっても、Aロッドは騒々しさからは決して離れられない選手なのだろう。大きなケガがない限り、ニューヨークで、全米で、今後も最大級の注目を集め続けていくはずだ。
Aロッドにとって、“現役最後の1年”になるかと思われた2015年――。現代の風雲児の奇妙な旅は終わらない。さまざまな意味で、今季も鮮やかなまでの健在ぶりを誇示していると言ってよさそうである。