FC今治が追い求める「結果」と「内容」 JFL昇格の道に必要な割り切りや柔軟性

宇都宮徹壱

「結果」と「内容」を天秤にかける時

試合後、取材に応じる木村孝洋監督。6−0で大勝したものの「もっと取れたはず」と渋い表情 【宇都宮徹壱】

 結局、6−0で勝利したものの「もっと取れたはず」という思いは、木村孝洋監督も重々感じていた。「ポゼッションして、相手を動かしながらシュートするところは成長したと思います。ただ、まだまだ攻撃面に関しては改善の余地はあると思います」と語る指揮官。このところチームが抱えている攻撃の手詰まり感は、実のところ岡田メソッドに関係しているのではないだろうか? 私の質問に木村監督は「直接的な影響はないと思います」としている。しかし、前日のインタビューで岡田オーナーは、こんなことを語っている。

「ラスト3分の1のところのメソッドが、正直ちょっと完成していない。だから(最近の試合も)そのとおりになっているなと。スペインのコーチは『最後は個人の力で打開すべき』と言うんだけど、それだと日本人には意味がない。だから僕らの方で作りこんで、そっちの方向で行くことになったんだけれど、そこは先々週にやっと決まったことなんでね。そこは後半戦で見られたらいいんだけれど(笑)」

 FC今治を率いる木村監督には、二重のミッションが課せられている。すなわち、「四国リーグ優勝とJFL昇格」という結果、そして「戦いながら岡田メソッドを実現させる」という内容。しっかりとポゼッション(メソッドでいうところの「プログレッション」)しながら相手の守備陣形を動かし、コースが空いたところで迷わずシュートを放つという部分では、確かに完成度を高めつつある。しかしこの日のリャーマスのように、中央にブロックをがっちり形成した相手に対しては、やはり個の判断と打開力が求められよう。それができていないのは、選手の間に「岡田メソッドと相反する」という迷いがあるからかもしれないし、木村監督自身もまた結果と内容の板挟みになっているのかもしれない。

 高知勢との優勝争いは、そのまま後半戦に持ち越させるが、それほど心配することもないようにも思える。この日行われたトライスター対アイゴッソの試合は0−0の引き分け。上位3チームの順位は変わらないが、FC今治は首位との勝ち点差は1に縮まった。高知勢が後半戦も潰し合いを繰り返したならば、FC今治に自力優勝のチャンスは十分にある。むしろ問題は、その先の全国地域リーグ決勝大会であろう。全国9つの地域リーグ優勝チームが集う、この大会で2位以上を確保しなければ、JFL昇格の道は開かれない。実は私は、この地域決勝を10年取材している。その経験に即して指摘するならば、どんなに優れた戦力や戦術を有していたとしても、なかなか簡単に勝ち抜けないのがこの大会の怖さである。

 地域決勝に関しては、またしかるべきタイミングで詳しく言及することになるが、後半戦以降の戦いでは、「結果」と「内容」を天秤にかける瞬間が必ず訪れるはずだ。要は「とにかく勝てばいい」という割り切りである。FC今治が本気でJFL昇格を目指すならば、勝ち点3を得るために理想を一時封印するような柔軟な戦い方も、今後は求められよう。そう、岡田オーナーが日本代表監督時代に、南アフリカで見せた采配のように──。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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