敗退にもクラブの格を示したバイエルン 戦い続ける意味と意義を知る選手たち

中野吉之伴

如実に出たチームとしての仕上がりの差

オートマティズムと個人のアイデアが最適に融合されたバルセロナ。現地点でのチームとしての仕上がりの差が如実に出てしまった 【写真:ロイター/アフロ】

 だがこの日の失点シーンはどちらも守備でのミスが重なった形で起こってしまった。1失点目の場面ではボールを持ったメッシに対して、誰もアプローチにいくことができず、また裏への抜け出しを図るスアレスをケアすることもできなかった。ドイツのテレビ実況は「マークしていたシャビ・アロンソの足が遅かったので取り逃がしてしまった」と指摘していたが、このシーンでは「メッシにプレッシャーがかかっていない」「ポジショニングが悪くパスコースができている」「守備陣が足を止めてしまっている」という3つのミスが重なったことで起きた失点だ。メッシがフリーで前を向いてボールを持っているという状況に対して、せめて守備陣が一度ラインを下げて対応することができていれば、シュートまで持ち込まれることはなかったかもしれない。

 2失点目もセンターバック(CB)のベナティアが飛び出してヘディングで競り負けたというのも問題だが、CBがヘディングに行った段階で周りの選手がセンターのスペースをカバーしなければならない。しかしボアテングもベルナトもそうした動きを全く見せることなく、ボールがこぼれてきてから慌てて追走。

 どちらも守備戦術において非常に基本的なこと。バイエルンの選手が知らないわけはない。しかしそれができなかった。それはなぜだろうか。フランツ・ベッケンバウアーが「バルセロナと対戦するときには全選手が必要なんだ」と話してたが、負傷者を抱え続けながら戦ってきた影響が大きく出た。それは単純に負傷者を起用できないということだけではなく、過密日程による負荷が選手のコンディション調整を難しくしたということにもつながる。一時期はしっかりと練習できる選手が13〜14人しかいなかった時もある。バルセロナ戦で出場した選手でも身体に問題を抱えていない選手はほとんどいなかった。顎と鼻を折りながらも特性マスクを付けてプレーしたレバンドフスキ以外にも、シュバインシュタイガー、ラーム、ラフィーニャ、ベナティア、チアゴは長期離脱から復帰してきた選手。コンスタントに100%のプレーができる状態ではない。

 戦力が整わず、真っ向勝負が難しい状況になると試合に向けての戦略が重要な意味を持つ。しかし戦略が研ぎ澄まされ、緻密化すればするほど要求通りのプレーをする方に気持ちが傾いてしまい、本来なら普通にできている基本的な動きへの意識が散漫になってしまうことがある。やり続けてきたことに迷いもずれもないバルセロナのサッカーにはオートマティズムと個人のアイデアが最適に融合されており、考えてプレーしようとすればするほど反応が遅くなってしまう。現地点でのチームとしての仕上がりの差が如実に出てしまった。

負けや失敗が自分を強くすることを知っている

敗退にも、今季の戦いを称えるシュバインシュタイガー。気持ちを切り替え、また戦い続ける 【写真:ロイター/アフロ】

 事実として2年連続CL準決勝敗退という結果は残った。願わくばもっと上まで残りたかったし、それだけの力のあるクラブでもある。しかしミュラーが「サッカーは全てが望み通りにいくわけではない。毎年3冠を取らないと良いシーズンではないというのもありえない話」と話したように、それが「バイエルンは終わった」という結果に結びつくものではないだろう。12−13シーズンのCL準決勝でバイエルンに完敗したバルセロナ(2戦合計7−0)に対して、「バルセロナの時代は終わった」と言っていた人は少なくなかったのではないか。セリエAの凋落に対して「イタリアのサッカーはもうだめだな」と言っていた人は今回のユベントスのCL決勝進出をどう思っているのか。
 
 シュバインシュタイガーは「僕はUEFAカップにしか出られず、タイトルを取れない時期もあった。それを乗り越えて今、チームは4年間連続でCL準決勝か決勝まで進出している。3冠も獲得(12−13シーズン)し、3年連続リーグ優勝を果たした。けが人などの大きな問題があったけれど、リーグをあれだけ早い段階で優勝するのは当たり前のことではないんだ」と振り返っていた。負けや失敗が自分を強くすることを知っている人間は、また立ち上がり、立ち向かうことへの戸惑いもためらいもない。戦い続けることの意味と意義を知るものは、次へ向けて気持ちを切り替えることもできるはずだ。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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