キューバが名選手を輩出し続ける理由
背景にある社会主義とラテン気質の融合

野球に最も優秀な才能が集まる

バルセロナ、アトランタと2度の五輪金メダルに貢献し、晩年は中日でもプレーしたオマール・リナレス氏
バルセロナ、アトランタと2度の五輪金メダルに貢献し、晩年は中日でもプレーしたオマール・リナレス氏【撮影:龍フェルケル】

 キューバの首都・ハバナにあるラテンアメリカスタジアムで3月12日、同国の“至宝”が待っていた。キューバリーグで歴代最高の打率3割6分8厘を記録し、主砲として1992年バルセロナ、1996年アトランタと五輪で同国を2大会連続の金メダルに導いたオマール・リナレスだ。


 2002年から中日で3年間プレーしたリナレスは、キューバが次々と好選手を生み出す理由をこう説明する。


「キューバには素晴らしい育成システムがあり、子どもの頃から上達させていく。われわれはスポーツ学校に通い、野球をどうやってプレーするかを学んでいくんだ。すべてのカテゴリー(世代)で熱心に教え、最終的に国にとってベストな選手を選んでいく」


 かつてキューバにはプロリーグが存在したが、1959年に革命政権を樹立したフィデル・カストロ前国家評議会議長は葉巻産業を除くすべての会社を国営化し、野球選手もアマチュアとしてプレーすることになった。


 ドミニカ共和国やベネズエラなどと同様に恵まれた身体能力を誇る選手たちは、常夏の島で、カストロのつくり上げた強化システムで英才教育を施されていく。それこそが、キューバが90年代までアマチュア最強の座を欲しいままにし、数々の名選手を輩出してきた理由だ。キューバではすべての競技で子どもの頃から可能性を秘めた選手を選抜していくが、国技の野球に最も優秀な才能が集まってくる。

トップをつくってスイングする打者

(撮影:中島大輔)

年齢別にシステム化された育成組織

3度の五輪金メダルをはじめ、90年代には「アマ野球最強国」の名を欲しいままにしたキューバ
3度の五輪金メダルをはじめ、90年代には「アマ野球最強国」の名を欲しいままにしたキューバ【写真は共同】

 キューバ野球のカテゴリーは「7、8歳」、「9、10歳」、U12(12歳以下、以下同様)、U15、U18、U21、そしてトップリーグのセリエ・ナシオナル・デ・ベイスボール(いわゆるキューバリーグ)と分かれている。そのなかで育成の根幹をなすのが、国営スポーツ学校「エイデ」だ。


 キューバの各15州にそれぞれエイデがひとつあり、13歳から19歳までが選抜されて19歳以上になると、優秀な選手はスポーツ大学に通うことになる。


 キューバ野球連盟の技術委員長を務めるカルロス・アントニオ・ルイス・ディアスによると、エイデの入学試験に合格できるのは「必ずしも優秀な選手ではない」。判断される基準は、「大人になったときに活躍できるポテンシャルがあるか」だ。


「スピード、肩の強さ、スイングスピードを持っていれば、われわれのコーチがスキルを身につけさせることはできる。入学時に見る一番大事なポイントは、フィジカルコンディションだ」


 合格した選手は、自宅が近い者は通学、遠い選手は寮で暮らす。ハバナから車で30分の距離にあるマヤベケ州のU15選抜の場合、25選手が所属。午前中に3時間練習し、午後には学校で授業を受けている。練習は週4日間で、試合が行われるのは週末だ。


 入学後も技術的なテストが定期的に実施される。その内容は、一塁までの走塁スピード、肩の強さ、スイングスピード、フィジカル、1マイル(約1.6キロ)走、打球への反応スピード、守備のスキル上達など、多岐に渡る。医学的には筋肉量のチェック、脂肪量、体内のヘモグロビンのレベル、歯のテストなどが行われる。


「お前の守備は受身すぎる。もっとアグレッシブにプレーしろ!」


 3月17日、マヤベケ州のエイデでU15選抜の練習を見ていると、シートノックを行っていた監督のホビエル・レロスが大声をあげた。同じカリブ諸国のドミニカ共和国やオランダ領キュラソーと比べ、キューバの指導は厳しい雰囲気だ。ラテンの放任主義と異なり、日本の管理式と近い印象を受ける。その理由をレロスが説明する。


「いい選手になるためには、まずは規律を学ぶ必要がある。そうして初めて、テクニックを覚えることができる。いい結果を残すためには、それが唯一の方法だ」


 ただし、指導者が一方的に押しつけるわけではない。自ら考えることの重要性を説くのは、U18ハバナ州選抜を率いるエルビス・ガリード・タラベラだ。


「いい選手になるためには、第一に論理的思考ができなければならない。それを習得させるために、状況を設定した練習で、それぞれどうすべきかを教えていく。特に悪いプレーをした場合、練習中でも黒板の前に連れて行き、学ぶべきことを頭で理解させる」

中島大輔
中島大輔

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。著書に『人を育てる名監督の教え すべての組織は野球に通ず』(双葉新書)。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』がミズノスポーツライター賞の優秀賞。

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