キューバが名選手を輩出し続ける理由 背景にある社会主義とラテン気質の融合

中島大輔

工夫が施されたキューバ式の練習

タオルを使ったシャドーピッチングなど日本でもなじみのある練習風景がキューバでも見られる 【撮影:龍フェルケル】

 U18ハバナ州選抜のトスバッティングで、興味深い練習が行われていた。ボールを下から上に投げるだけでなく、上から下に投げるトスも織り交ぜるのだ。打撃コーチのアルマンド・ウルヘジェス・アレマンが、その目的を説明する。

「上から下に投げるのは、カーブのイメージだ。ボールが上から下に落ちてくるまで待たなければならない。下から投げるのはファストボールで、スピードに対応する必要がある。試合でピッチャーはいろいろなボールを投げてくるので、トスから同じようなイメージで打つようにしている」

 このチームには現在、25人が所属している。プレーするのはエイデに合格できなかった選手たちだが、決してレベルが劣るわけではない。例えば昨年、U18ハバナ州選抜から5人がキューバリーグの名門インドゥストリアレスに入団した。今年はU18の1人がすでに、インドゥストリアレスでプレーしているという。ちなみにキューバでは誰もが、出身地区のチームでプレーすることに決められている。

 選手たちは午前中に学校で授業を受け、午後に3、4時間練習を実施。練習は週4〜6日で、週末に試合が行われる。1月から5月まで15州の代表チームが予選ラウンド36試合、セカンドラウンド5試合を戦い、ナショナルステージで優勝をかけて争われる。

 9、10月はセレクションの期間だ。昨年9月には、100選手がハバナ州選抜の候補としてリストアップされ、1月までに25選手に絞られた。残りの75選手は、ハバナ市選抜などローカルチームでプレーする。U15ハバナ市選抜にはU12キューバ代表として来日したことのある選手もおり、キューバ野球の層の厚さが感じられた。

 U18ハバナ州選抜の監督を務めるタラベラが言う。

「キューバ人は野球をプレーするために生まれてくる。そうした少年たちをアカデミーで伸ばしていくんだ。この国の選手たちは素晴らしいフィジカルを持っていて、強くて、速い。優秀な指導者がいて、プレーするのにいい環境もある。キューバで野球が始まって以来、いつの時代も優れた選手がいた。今後もそう続いていくと信じている」

下からも上からも行われるトスバッティング


(撮影:中島大輔)

キューバ野球の特徴はアグレッシブさ

 キューバ野球を2週間近く見て歩き、最も興味深かったことのひとつが、少年レベルからアルフレド・デスパイネ(千葉ロッテ、キューバではグランマに所属)、ユリエスキ・グリエル(前横浜DeNA、キューバではインドゥストリアレスに所属)というトップリーグの打者まで、ほぼ全員が初めからトップをつくった構えで打ちにいくことだ。

 この打撃スタイルについて、U18ハバナ州選抜監督のタラベラが説明する。

「キューバの打者は基本的に、体の近くにポイントを置いている。なぜなら、アグレッシブに打ちにいくことができるからだ。アグレッシブというのは、積極的に行くということ。そうした気持ちは試合に勝利するうえで、すべてのプレーにおいてアドバンテージになる。常にベストを尽くし、強く振り、ベースに素早く到着し、どんな当たりでもあきらめずに走る。そうして常にホームベースに返ってこようとする。それがアグレッシブということだ」

 打つポイントを体の近くに置いておくことで、ボールをギリギリまで見極めることができるため、好球を積極的に打ちにいくことができる。それがキューバにおける、アグレッシブな打撃の考え方だ。もちろん、天性のパワーを備えていることが前提にある。

 タラベラ監督が続ける。

「アグレッシブにプレーできることはキューバ人の武器のひとつであり、最も重要なものだと思う。アグレッシブにプレーしていれば、難しい場面でも自分で試合を決めようという気持ち、つまり勇気を持つことができる」

 子どもの頃からエリート候補を選抜し、英才教育を施していくシステムは社会主義ならではのものだ。そこでラテンの特性であるパワー、スピード、アグレッシブなプレースタイルを伸ばしていく。1年中、強烈な太陽の照らす下でプレーできるという環境の恵みもある。
 人口約1100万人の島国から、なぜ今も昔も好選手が次々と生まれてくるのか――。その背景には、社会主義とラテン気質の融合がある。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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