原博実が見た自衛隊サッカー 原点を感じさせる大会の存在価値

平野貴也

日本サッカー界のつながり

大会の存在意義を感じている原専務理事は、JFAとして「よりサポートしていきたい」と話した 【平野貴也】

 67年にJFAの主催で始まった全国自衛隊サッカー大会は、10年目から自衛隊連盟に引き継がれた後も情熱の灯を絶やすことなく続けられており、2013年には、フットサル形式で女子の部も発足するなど独自の発展を見せている。12年のプレ大会は3チームで行われたが、年々、参加チーム数が増加。今年は15チームが参加するなど大会に新たな熱気を生んでいる。

 女子の部は、11人制サッカーへの移行を念頭に置きながらフットサル形式で大会を始めた経緯があるが、大会の成長を目の当たりにしたJFA関係者からは、日本フットサル連盟の管轄下で正式に「全国自衛隊女子フットサル大会」と改名して行う提案も行われたという。自衛隊大会がかつてJFA主催であったという歴史も無関係ではないが、小規模の大会であるにも関わらず、JFAがメダル(今大会から女子の部で授与)や助言を与えて協力姿勢を打ち出しているのは、長期的視野で日本サッカーを底上げする、グラスルーツ(草の根)の発展という視点があるからだ。

「専務理事になってからは、日本代表やJリーグだけでなく、草サッカー大会、レディース大会、フットサル、ビーチサッカー……といろいろな大会を観に行くようにしています。日本代表が、日本のサッカーの頂点ではあるかもしれないけれど、そういういろいろなサッカーがあって、シニアやママさんも含めたところでサッカー文化が根付くことが、遠回りのようだけれど、日本のサッカーを強くするベースになっていくと思っています。

 海外の強い国というのは、結局のところ、サッカーの話題が多い。プロだけじゃないんです。自分が所属している(社会人)リーグや、自分の息子がプレーしている(少年)リーグの話をする。どこかの酒場に行けば、あのリーグがどうだとか、あのレフェリーは何だとか、いつもサッカーの話をしている。そうならないと『日本は、世界のトップ10に入る!』などとは言えません。今のところは順調に来ていると思いますけれど、ここからもう一つ上のステージに行けるかどうか。こういう自衛隊のサッカー、あるいは大学や高校のサッカーといった(アマチュアの世界で自発的に生まれて脈々と継がれている)ものがあるということが、むしろ日本の強みだと思います。だから、自衛隊の方たちが大変な任務の中で、サッカー大会をやってくれていることはありがたい」

 原専務理事の言葉は、日本代表とは無関係に思われる大会や選手たちが、その土台を支えていることを表すものであり、また日本サッカー界のつながりを示すものでもある。自衛隊大会に限らない話でもあるが、日本代表、Jリーグといった華やかさのある舞台と比べれば地味なアマチュアの大会にも小さくない存在意義がある。

「多くの人が関わっている大会ですし、僕たちもサポートできるところはしていきたいと思っています。JFAは、サッカーを広めていくためにグラスルーツを大事にしていますが、その点で何万人といる自衛隊は大きな組織です。彼らから、また家族にサッカーがつながっていくこともあるはずです。来年は50回大会だし、よりサポートをしていかないといけないと思います。彼らには、任務の合間にサッカーを楽しんでやってほしいですし、体に気を付けて、また家族を大事にしてほしいですね。見ているこちらがパワーをもらう大会なので、感謝の気持ちです。日本サッカー界の原点という感じの姿がこの大会で見られることはうれしく思います。また観に来たいですね。そういう大会です」

 3度目の視察をほのめかして、原専務理事は会場を去った。近年は、育成年代でもさまざまなリーグ戦や招待大会が増えている。それは、少しずつ、日本でサッカーをする、あるいは関わる人、時間、場所が増えていくということだ。50年も前から、スポンサーが付くわけでもなく有志による手作りで継続され、組織の理解を得ながら新たな発展を見せようとしている自衛隊大会という存在は、サッカー文化の定着という観点で今後も貴重な価値を示すのではないだろうか。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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