日本男子が保ったリレー伝統国の面目 世界リレー銅メダルで五輪出場権を獲得

及川彩子

ナショナルチームの功績

メダルを掲げ、喜びを爆発させた日本チーム。土江短距離副部長は「力が抜けて、いいレースができました」と話す 【写真:ロイター/アフロ】

 日本の短距離副部長を務める土江寛裕コーチは、「これだけ主力と呼ばれた選手が来られなかったため、決勝進出が最低条件でした。決勝では(最低条件を突破できていたことで)力が抜けて、いいレースができました」とレースの感想を述べた。どこまで戦えるかコーチ陣も不安があったことは否めず、今回の銅メダル獲得はうれしい誤算だったようだ。

 興味深いのは38秒73だった予選から、決勝では38秒20まで記録を大幅に伸ばした点だ。この記録は日本歴代4位に相当するタイム。07年の大阪世界陸上で、アンカーに絶対的エースだった朝原宣治を擁して出した38秒21をも上回るものだ。

 桐生も「いつも予選より決勝のタイムが遅いんですけど、今回、決勝のタイムがぐんと上がりました。これはすごくいい結果だと思う」と分析する。

 また、前回メダルを獲得した北京五輪と、今レースのメンバー構成も興味深い。北京五輪ではメンバーがほぼ固定されており、前年の大阪世界陸上も同じメンバーで走っている。

 しかし、それ以降は流動的なメンバーで“その時に”ベストの選手が選ばれている。得意不得意な走順もあると思う。実際、米国やジャマイカはカーブを苦手とする選手もいるため、走順が固定される傾向にあり、急なメンバー変更に対応できないことも多い。

「誰がどの走順でも走れるように、そういう意識を持って練習に臨んでもらっている」と以前、土江コーチは話していたが、日本は選手に走順の固定観念を持たせないことで、柔軟に対応することができたとも言えるだろう。

北京、リオでステップアップを

 大会前日に国際陸連主催の記者会見に出席したマイケル・ジョンソン、フランキー・フレデリクス、アト・ボルドンが1996年のアトランタ五輪やリレーの思い出話などを語った。その後、司会者から「今大会の400メートルリレーはジャマイカと米国以外に注目しているチームはありますか」という質問に対し、ボルドンは「日本です。彼らのリレーはいつも素晴らしい。注目に値するチームです」と迷うことなく答えていた。

 周囲の反応は薄かったため、レース後、ボルドンは日本の活躍に「だから言っただろう」としてやったりの様子だった。

 北京五輪で銅メダル獲得後、「日本ができるなら」と多くのチームがリレー強化を行ってきている。今レース4位でリオ五輪を控えるブラジル、アジア大会で日本を破った中国、そしてイタリア、ナイジェリアなども外国人コーチをテクニカルアドバイザーに迎えて、強化を行っている。しかし、今レースで日本は2度目のメダルを獲得し、“リレー伝統国”としての面目を保った。

 今回の結果から他国もますます日本を研究し、リレー強化を図ってくることだろう。8月の世界陸上北京大会、来年のリオ五輪でこのメダルからどうステップアップした走りを日本チームが見せてくれるのか、注目していきたい。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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