桐生祥秀、9秒87が証明した進化 走りに変化を生んだ坂道スキップ
高速ピッチのままストライドを広げる
非公認ながら9秒87をマークした桐生祥秀(写真右)が練習を公開した。左は指導する土江寛裕コーチ 【スポーツナビ】
3月のテキサス・リレーでは、100メートルで3.3メートルの追い風参考ながら9秒87をマーク。電気計時では日本人初となる9秒台ランナーになった。桐生がこれまでも、9秒台にもっとも近い日本人の一人であったことは誰もが認めるところだろう。しかし、追い風の影響はあれど9秒9の壁をも越えて9秒8台の記録を、しかもシーズン初戦でたたき出すとは驚異的だ。
なぜ桐生はここまでタイムを伸ばすことができたのか。指導する土江寛裕コーチは「冬季トレーニングの成果が出たのでは」と説明する。今季は最大の強みである高速ピッチを維持しながら、ストライドを広げる取り組みを続けてきた。中でも土江コーチが手応えを感じたのが、スキップで坂を上るトレーニングだ。桐生はもともと「上からポンと地面をたたいて(走って)いく」タイプで、縦方向に力が働いていた。しかし坂道では、スキップのような上下に働く力を、前方向への強い推進力に転換しなければ速く進めない。この力を平地での走りに生かそうというのだ。
最初は「本人は自分の感覚にないことなので、やるとちょっと拒絶反応していた」というが、「これが一番メインだから」と説明し繰り返し練習することで、体を前にスライドさせる感覚を体にしみこませた。そうすることで、脚を着地させた際の重心移動がスムーズにできるようになってきたと土江コーチは語る。
データにも表れた桐生の進化
スムーズな加速をするために、ウエートを担ぎながら踏み台を昇り降りするトレーニングを取り入れている 【スポーツナビ】
この腰のくびれの下からお尻の頂点辺りにかけての筋肉は、土江コーチが桐生の“一番のエンジン”と表現するほど重要なパーツだ。通常、走る動作は脚の付け根にあたる股関節を動かすが、桐生の場合は「股関節ごと背中の筋肉で動かすイメージ」。股関節よりさらに高い位置を基点に脚を動かせば、走りも大きくなり、より大きな推進力を生み出すことにつながる。
こうした走りの変化は、テキサス・リレーでもデータとして現れた。これまで48.5歩で走っていたのが今回は47歩ちょうど。桐生自身も、「前はずっともも上げの延長で縦ばっかりでしたが、少し(前に)進む感じがします」と進化を実感している。
次のレースは18、19日に行われる織田記念国際(エディオンスタジアム広島)。2年前に日本歴代2位となる10秒01をマークした思い出の大会だ。9秒台突入は、日本スプリント界の悲願であることは間違いない。しかし成長を続ける19歳のワンダーボーイは、9秒台も一つの通過点として、すんなりとやり遂げてしまうことだろう。
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