60万人の結束を生み出すために 大神雄子から見た日本バスケ界<後編>
「契約社員や社員でもプロとしてプライドを」
日本と米国でのプレー経験を持つ大神(右)は、プロ選手としての「自分で考える力」が大切と話す 【写真:アフロスポーツ】
契約社員や社員でも、バスケをやっているなら、ファンの人に見に来てもらうなら、そこはプロとしてプライドを持ってほしいと強く思っています。
米国では、たとえば「明日の練習は9時から」となったら、(練習までの)3食とすべてのルーティーンを自分で考えなければいけません。一方で日本の良さは、練習が終わってシャワーを浴びて、食堂に行けば食事がもう出てきているところです。ただ、それは良し悪しだと思うんですよね。米国では苦労したけれど、次の日の練習に向けて“自分で考える力”が身に付きました。日本の環境はすごく整っていますが、与えられたものに向かってそのまま進んでいるだけじゃないかと思います。たとえば疲労したとき、トレーニング後の栄養になるものを知るのは大事ですが、やはり自分で試行錯誤しないと身に付かない。それを先に与えちゃったら、何も考えないようになります。
――他に日本の女子選手が足りていないことはありますか?
国際試合になれば、審判とも英語で話さなければいけません。でも話せない選手が多いんです。自分の場合はたまたまそれが海外だったけれど、英語に関しては日本でもやれることだと思います。“どこでやるか”より“何をやるか”です。
審判に「今のファウルは何だったの?」と聞くようなやり取りは試合の中で頻繁にあります。バスケは選手同士だけでなく、審判も近いですし、ファウルのジャッジも細かい。納得がいかなかったら質問をするということは、コミュニケーションとして大事なことです。代表の選手なら英語はマストです。バスケットボールはディフェンスもオフェンスも、言葉がすべて英語ですから。
「(JBAは)盛り上げの部分も欠けていた」
日本の女子バスケットボール界のパイオニアと言っても過言ではない大神。未来を思い、たくさんの“声”を届けてくれた 【Getty Images】
日本で女子のプロリーグを作るというのは、今はちょっと難しいのかもしれません。今はまだ企業チームが大半を占めていて、プロに近いクラブチームはあっても、男子よりも実業団度合がかなり強い。プロは私しかいなくて、他はみんな契約社員などの雇用形態です。
――バスケ界ではこれまで男子も女子も選手からの発信が乏しかったのではないでしょうか?
(パトリック)バウマン(FIBA事務総長)さんも川淵(三郎/タスクフォースチェアマン)さんも「なぜ選手が声を発さないのか?」と仰っていました。私も本当にそう思います。声を大にして言いたいくらいです。でもそれ以上に、そもそも「なぜリーグが2つあるのか?」とか、(多くの選手は)問題の理解にも達していないんですよね。選手の聞く姿勢も足りなかったのですが……。こういうことがあったなら、統治やリーグのプロが(選手やスタッフに)説明をして欲しかったな、というのは今でも思います。
協会のガバナンスのことが言われていますけれど、一つ例を出すと、昨夏に女子の世界ランク5位(当時)のチェコが来日したんです。それを非公開練習試合にするとか、もったいないでしょう? 日本は今まで北京も、ロンドンも五輪の最終予選でチェコに負けている。そういう宿敵が日本に来て、ホームで負けられない想いもあるじゃないですか。(JBAは)そういう盛り上げの部分も欠けていたと思います。
――最後に、日本のバスケ界が持つ“可能性”をどう考えていますか?
競技人口はすごく多いですからね。60万人(編注:JBAへの競技者登録数は、13年時点で約62万人にも及ぶ)が一つになったときの結束力は強烈です。バスケが好きで楽しいから始めた60万人ですから、その可能性は大きいと思うんです。何かをやるときにはエネルギーを使うし、摩擦も生じます。でも誰かがやらないと、60万人の想いはその時点で断たれてしまうと思います。
自分もそうですけれど、こういう選手になりたい、五輪に出たいという想いを持っている選手がたくさんいて、日々きつい練習をやっています。身体を動かして、ひいひい言いながら頑張ろうとしている姿を、協会の方にも見てほしい。現場に来てもらえば、その想いは何かを言わなくてもきっと伝わるし、動いてもらえるはずです。
毎週末戦っている選手にも“見せる”使命があると思います。今は、私たち選手も一つになって戦わなければいけないときです。