2月28日プレ旗揚げ戦で見えた課題とは!?=異色の新格闘イベント「巌流島」を考察

長谷川亮

格闘ゲームが現実化したワクワク感

高さ60センチ、直径8メートルという土俵を思わせる円形競技場で行われた「巌流島」 【中原義史】

“究極の立ち技異種格闘技戦”をコンセプトとする新たな格闘技大会「巌流島」が2月28日、初開催となった。円形競技場を採用し、3分3R、KO・ギブアップだけでなく押し出し(1試合中に3回の場外への押し出しで一本)でも勝負が決する戦いは何が起こるか予測不能と思われたが、過去に行われたある大会を想起させた。感じられた問題点と光った選手、“公開検証”と銘打たれた大会を振り返る。

 大会はディファ有明で開催され、会場に足を踏み入れると高さ60センチ、直径8メートルという土俵を思わせる円形競技場が広がり、そこへ色とりどりの道着をまとったトーナメント出場8選手が揃った様はなかなかに壮観。カポエイラ、セネガル相撲、相撲、アメフト、プロレス、散打、キックボクシング、コンバット・サンボと出自の異なる選手がズラリと並び、さながら格闘ゲームが現実化したかのワクワク感があった。

初代タイガーも似たような競技を実戦

いろいろな出自の選手が一堂に会す格闘ゲームを現実化したようなワクワク感があった(写真は足技に特化したカポエイラ出身のアウレリオが見せた豪快な高速後ろ回し蹴り) 【中原義史】

 実際に試合が始まっても、体操選手のように高々と舞うバク宙を見せ登場したカポエイラ代表のマーカス・レロ・アウレリオがセネガル相撲代表のアブドゥーラ・ニャンを秒殺、いきなり正面衝突かと思われた相撲代表・星風とアメフト代表・和久憲三の立ち合い、ダウンの取り合いでスリリングな攻防となったキック代表ブライアン・ドゥウェスvs.コンバット・サンボ代表カーメン・ゲオルギエフと、1回戦はいずれも短期決着となったが、巌流島独自の世界と戦いを提示して見せた。

 土俵に似た闘技場を用い、押し出しありの戦いということで、思い浮かんだのは初代タイガーマスク・佐山サトルが2010年から11年にかけ開催した大会「武道 掣圏」。円形ではなく八角形のリング、押し出しだけでなく3秒間の制圧(=抑え込み)による決着もありと巌流島とは異なる部分もあったが共通点も少なくなく、やはり「武道 掣圏」でも相撲のように短期決着が続出していた。世界でいち早く総合格闘技・修斗を創始した佐山だが、10年先を行くとも言われるその理論はこうした戦いも予見していたのだろうか。

K−1出身の渡辺が“らしさ”発揮

プロボクサーからK−1選手に転向した渡辺が豪快なファイトで会場を沸かせた 【中原義史】

 この日はリザーブマッチとスーパーファイトも含め全10試合が行われたが、3回の累積による押し出しで決まったのが5試合、パウンドで決した試合が5試合。しかし押し出しの後、押し出した側が一緒に場外へ出てしまうと「同体」としてノーカウントとなり、投げでテイクダウンしそこからパウンドを見舞おうとしてもレフェリーのブレイクが早くスタンドに戻されるなど、相撲代表・星風のように組み技を主体に戦う選手には体力を消耗するだけで不利となる、ルール上改善すべき点も見られた。

 そんな中、大会で最も光ったのはスーパーファイトで少林拳のグゥオ・チェンと対戦した渡辺一久。ボクシングからK−1に転向後、暴走が過ぎ空回りとなってしまい存分に力を発揮してきたとは言い難い渡辺だが、この日は絶対的な打撃の自信からノーガードでチェンへ向かい、まず四つで組むと相撲のように横へ振って場外へ出し1ポイント。

 その後も飛行機投げでチェンを場外へ投げ飛ばし(しかし同体でノーポイント)、空振りを呼びバックへ回ってのパウンドラッシュ、プロレスのフロントネックチャンスリーを思わせる投げでポイントを奪取と、意外性ある豪快なファイトで客席を沸かせ、最後は場外ポイント3回による累積で一本勝ち。K−1転向以降、最も“らしさ”を発揮して勝利した。

ブレイクのタイミングなどに改善点

KO・ギブアップだけではなく押し出しでも勝負が決まるルールだったが、今後に向けてより格闘技の良さが出せるルール整備やブレイクのタイミングが課題として残った 【中原義史】

 大会後、会見に応じた巌流島・谷川貞治広報部長は「課題と面白さが入り混じった」大会だったと振り返り、「もっとそれぞれの格闘技のいいところが出せれば」と、やはりルールやブレイクのタイミングなどジャッジを改善点として上げていた。そして年内は次戦を6〜7月、第3回大会は10月ごろ、さらに12月あるいは大晦日にも大会を開催したいと言い、今後も大会での実験・検証を続けながらルールを整備していきたいとした。

 毛色の変わったゲーム性の高い格闘技――

「巌流島」はそんな風に肩の力をやや抜いて向き合えば楽しめるし、スポーツバラエティーあるいは格闘技バラエティーとしてとらえるのがいいのかもしれない。今後回数を重ねてルールが整備され、戦い方・勝ち方が分かってくると、各競技の個性が失われ、ダイナミズムが失われていく可能性はある。どのように変容し生き残っていくことはできるのか、今後の大会で巌流島が試される。
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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