外国人騎手誕生のインパクト 馬券、日本人騎手への影響、課題を考察
既得権の行方が競馬を面白くする
ルメール(中)、そしてデムーロが1年間を通じて騎乗することで、競馬の白熱度が増すことは間違いない(写真は2013年JCダート) 【スポーツナビ】
ところが今回のケースはまったく逆。トップジョッキーがいなくなるのではなく、デムーロ、ルメールの二人が加わるわけです。具体的な数字について、現時点で軽率なことは言えませんが、それぞれがざっと100勝前後ずつを上げるとすると、一体誰の勝ち分を奪っていくことになるのか。
この話は、単純なようでいて、実はそうでもありません。勝利数ではなく、賞金面で考えるとわかりやすい。
JRAの賞金は世界最高の水準なのだそうです。もっとも、きちんと調べたことはありませんが、いずれにしてもそれに近いのでしょう。その争奪戦がサークル内で繰り広げられているわけ。そこに新規参入者が二人。それもよりによって手練れの二人です。収入面で誰かしらの懐が直撃を受け、当然、他への連鎖も避けられません。
実はこの問題、地方競馬所属の騎手の移籍を認めた時点で顕在化していました。03年に笠松競馬のアンカツこと安藤勝己騎手が口火を切ると、主だったところだけでも園田の小牧太騎手、岩田康誠騎手、大井の内田博幸騎手、そして戸崎圭太騎手と、次々に“賞金の高い”JRAに移籍してきました。
何しろ移籍組の多くは、各競馬場でのトップクラス。現在のポジションを脅かされる騎手が、受け入れたJRAの側に少なからず出てきたわけです。
しかし、このことによって、レースが白熱味を帯びなければ嘘でしょう。モチベーションのすべてが賞金だとは言いませんが、どこかに危機感を抱えているのとそうでないのでは、自ずと気構えが違って当然。それがレースの質の向上にも大きく影響するはず。
そういった側面の勝負を期待するファンのニーズは根強く、地方競馬出身の騎手や短期免許の外国人騎手の参戦は、予定調和的には決まらない競馬の難しさ、奥深さを伝えることに大きく貢献しました。
浮き彫りになる課題
近年、JRAの若手騎手達は危うい状況に置かれています。なかなか結果を残せず、デビューから僅か数年で調教助手に転向したり廃業に追い込まれたり。この傾向が加速しているのです。
例えば、今回の外国人騎手二人に対抗し得るジョッキー達はいいのですが、そうでないポジションで四苦八苦している騎手達にとっては、こと騎乗数を取っても死活問題。実績のない若手であればあるほど、その活躍の場が狭まっていきます。
これらの構図を簡単に言ってしまえば、JRA自前の騎手と、外部から流入してきた騎手との争い。その結果として、JRA自前の騎手の分が悪いことを表しています。
そこから浮かび上がってくるのが騎手免許の交付方法そのもの、ひいてはJRA、地方との二重構造といった制度上の問題です。
現在、活躍している日本の騎手達は、JRA競馬学校の出身者。広く門戸を開いて多様な人材を募り、厳しい英才教育を受けて選び抜かれたエキスパート達ですが、その彼らがデビューしてすぐに、騎手として立ち行かなくなっている。一方、地方競馬に所属する騎手達は、地方競馬教養センターの出身者。
この二つの機関の並立については、単純な話ではなく、軽率に云々することはできません。ただ、もっと自由な発想でもって、騎手免許を取得するルールを見直すことはできないか、などと思ったりしています。
主催者が指定する、特定の機関を経由しない限り、騎手になるのは難しい現状。その閉鎖性こそが、自前の騎手の養成にマイナスに働いていないか、といったようなこと……。
このあたりを、まず深く掘り下げて考える時期にきているのでしょう。いかにして騎手を育てるのか。在学中だけでなく、卒業後についても。業界全体で取り組まなくてはならないことのように思います。
今回の二人のJRA外国人騎手誕生は、衝撃的なトピックとして競馬史に刻まれるでしょう。それほど日本の競馬界にとって、多くのことを提示してくれています。しかし、ただ記録に残すだけではなく、よくよく考えるキッカケにしなくてはならない。そんなように感じています。