新世代が台頭した3位決定戦、募る危機感 日々是亜州杯2015(1月30日)

宇都宮徹壱

中東勢を苦しめた「ガルフカップ疲れ」

試合会場で大会マスコットの『ナツメグ』に遭遇。アジアカップ閉幕を明日に控えて、少し寂しそうな表情 【宇都宮徹壱】

 大会22日目。この日はここニューカッスルにて、イラクとUAEによる3位決定戦が行われる。3日前に行われたオーストラリア対UAEを取材してから、私はずっとニューカッスルに滞在していたのだが、小さな街ゆえに退屈なことこの上なかった。それだけに、好天の下で今日の3位決定戦が行われるのは、それだけで晴れやかな気分になる。しかし同時に、今日を含めて今大会もあと2日となることを思えば、何となく寂しい気分にもなるのも事実。会場で子どもたちに愛嬌(あいきょう)をふりまく大会マスコット『ナツメグ』の表情にも、心なしか別れを惜しんでいるかのようないじらしさを覚える。

 さて、この日のイラク対UAEというカードについて考えてみたい。そこに浮かび上がってくる共通項は「ガルフカップ」である。ガルフカップというのは、中東の湾岸8カ国で2年に一度(時々ずれる)行われる国際大会。日本ではほとんど話題にならないが、各国の王族のプライドを懸けた戦いでもあるため、国によってはアジアカップよりもこの大会の成績を重視する傾向が見られる。最近では、昨年11月にサウジアラビアで開催され、カタールが3回目の優勝を果たしていた。

 興味深いのは、今大会のグループリーグで敗退した中東勢7チームのうち5チーム(サウジアラビア、バーレーン、カタール、クウェート、オマーン)が、いずれもガルフカップに出場していることだ。さらに興味深いことに、優勝したカタールをはじめ、2位のサウジアラビア、4位のオマーンなど、そこそこの好成績を収めている。大会そのものを見ていないので、もちろんうかつなことは言えないが、アジアカップの2カ月前にこれほどテンションの高い国際大会を戦ったら、選手のメンタル面やフィジカル面での影響はやはり避けられないだろう。いわゆる「ガルフカップ疲れ」というものが、今大会における中東勢の低迷につながった可能性は、決して否定はできないはずだ。

 そんな中、ガルフカップに出場しながら、アジアカップでもベスト4進出を果たしたのが、イラクとUAEである。ただし、両者のガルフカップでの成績は対照的で、イラクはグループリーグ最下位だったのに対し、UAEは3位に輝いている。イラクがこの大会を「捨てた」可能性は無きにしもあらずだが、直後に監督が交代しているところを見ると、単純にチーム状態が悪かったのかもしれない。逆にUAEは、ガルフカップで燃え尽きることもなく、その後のトレーニングやチームマネジメントがしっかりなされていたと見るべきだろう。チームを率いるマフディ・アリ監督は、遠からず中東随一の名将となりそうな気がする。

パスサッカーを身上とする両チームの対戦

オマル(左)のアシストからハリルが2得点。UAEが3位の座に上り詰めた 【写真:ロイター/アフロ】

 中東勢同士による3位決定戦。いつもなら泥臭い蹴り合いサッカーをイメージしがちだが、イラクはもともと中東でもモダンなパスサッカーの伝統があり、UAEも近年はポゼッション重視のサッカーを志向するようになっている。結果として、見ていてストレスを感じないどころか、非常にスリリングな試合展開となった。

 両者ほぼ互角の展開を見せる中、最初にネットを揺らしたのがUAEだった。前半16分、中盤でのインターセプトからパスがつながり、ドリブルしようとしたアリ・マブフートがつんのめったところを、オマル・アブドゥラフマンがすかさずフォローして前線にスルーパス。最後は、左から走りこんできたアハマド・ハリルが右足で冷静に流し込んだ。

 しかしイラクも負けてはいない。28分、右サイドバックのワリード・サレムが斜め方向にドリブルで侵入してシュート。弾道はGKの両腕の間をすり抜けてゴールインとなる。その後もイラクの攻勢は続き、42分にはついに逆転に成功。自陣からのロングボールをアハマド・イブラヒムが頭で落とし、左に展開していたアハマド・ヤスィーンがシュート。いったんはGKがセーブするも、逆サイドで待ち構えていたアムジャド・カラフが右足ワンタッチでネットを揺らす。前半はイラクの1点リードで終了した。

 後半もオープンな展開が続いたが、地力ではイラクがやや優勢かと思われた。ところが6分、オマルによるロビングのパスをハリルが再び決めて、UAEが試合を振り出しに戻す。さらに12分にはイラク守備陣のパスミスを奪ったマブフートをDFがペナルティーエリア内で倒してしまい、UAEにPKのチャンスが転がり込んだ(ファウルしたDFイブラヒムは、レッドカードで退場)、これをマブフート自身がしっかり決めて、ついにUAEが勝ち越しに成功する。

 その後10人となったイラクは、数的不利を個人技でカバーしながら猛攻を仕掛けるが、この日のUAEは最後まで集中が途切れることがなかった。落ち着いてボールを回しながら、残り時間をしっかり消化させてゆくサッカーに徹して逃げ切りに成功。パスサッカーの先輩格であるイラクに3−2で競り勝ったUAEが、見事に今大会3位の座に上り詰めることとなった。

「ニュージェネレーション」に手応え

試合後、互いの健闘をたたえるUAEとイラクの選手たち。彼らは「確かなもの」を手にして今大会を終えた 【宇都宮徹壱】

「選手たちはベストを尽くしてくれたが、いくつかのミスによって失点してしまった。今大会は新世代の選手を中心に臨んだが、(ベスト4という)結果はポジティブにとらえている。2018年のワールドカップ(W杯)予選に向けて、満足のいく結果だったと思っている」(イラク代表、ラディ・シュナイシル監督)

「我々の目標はアジアのトップ4であり、そのためにはチームのさらなる改善が必要だ。今大会では多くのことを学んだ。また、アジアのランキングでトップのイランに対しても、最後のワンチャンスを決められるまでは互角に戦うことができた。18年のW杯予選を突破するためには、まだまだハードワークが求められるが、新世代の選手たちがどんどん現れてきている。そして代表へのドアは、常にオープンだ」(UAE代表、アリ監督)

 試合後の両監督の会見で、キーワードとなったのは「ニュージェネレーション(新世代)」であった。この試合でイラクは3人、UAEは4人、それぞれ準決勝から選手を入れ替えている。その中には、まだ試合経験の浅い選手も少なからず含まれていたわけだが、それ以前に両チームとも、今大会はあえて若い世代を主体とした編成で臨んでいたことは留意すべきであろう。イラクは4選手を除く全員が23歳以下であったし、UAEもオマルやマブフート、ハリルらロンドン五輪世代がチームの中軸を担っていた。いずれも若手主体のチームゆえに、現時点では日本が優位に立っているのは間違いない。だがイラクにしろUAEにしろ、2年後のW杯最終予選では厄介な相手に成長している公算は高い。

 今大会3位となったUAEのアリ監督はもちろん、敗れたイラクのシュナイシル監督も試合後の表情が晴れやかだったのは、18年W杯予選に向けたポジティブな要素を見いだしたからであり、とりわけニュージェネレーションの台頭に手応えを感じたからであろう。翻って日本はどうだったか。ハビエル・アギーレ監督が選んだのは、結果を重視したベテランの起用だった。その判断自体は否定しない。しかし結果重視でベスト8止まりというのは、やはりいただけない。

 今回招集された、いわゆる新戦力のうち、実際に試合で使われたのが武藤嘉紀と柴崎岳、そして(すでに若手とは言いがたいが)豊田陽平の3人だけだったのは、実に寂しい話ではないか。いずれも光るプレーを見せてはいたが、彼らがサブメンバーの地位に甘んじていたのも事実である。18年W杯予選とそれ以降のことを考えるなら、現状の主力をしのぐような若いタレントがもっと出てこないと、日本代表に明るい展望を見いだすのは難しい。日本の記者が数えるほどだった今日の3位決定戦。だが試合が白熱したこと以上に、そうした危機感を新たにすることができたという意味では、退屈なニューカッスルにとどまって正解であった。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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