現代の偉大なる10番、リケルメの引退 フットボール界が失った素晴らしい瞬間

存在が世界中に知れ渡ったボカ時代

カルロス・ビアンチ率いるボカで数多くのタイトルを獲得し、世界中へその存在を示した 【写真:ロイター/アフロ】

 ホセ・ペケルマンの指揮下、パブロ・アイマールやエステバン・カンビアッソ、ワルテル・サムエルらとともに97年にマレーシアで行われたFIFAワールドユース選手権で優勝した経験もあったものの、彼の存在が世界中に知れ渡るようになったのはカルロス・ビアンチ率いるボカで活躍しはじめた98年以降のことだ。

 この年ボカは国内リーグで40戦無敗の新記録を樹立しただけでなく、98−99シーズンの前期、後期リーグ連覇を実現した。さらに2000年には00−01シーズンの前期リーグとコパ・リベルタドーレスを制した上、ルイス・フィーゴ、ロベルト・カルロス、フェルナンド・イエロ、ラウル・ゴンサレス、フェルナンド・モリエンテス、イケル・カシージャスらを擁するレアル・マドリーを下してトヨタカップ(現クラブワールドカップ)も手にしている。キャリア最高のパフォーマンスを披露したこの試合は世界中に驚きをもたらし、ほどなくバルセロナへとステップアップするきっかけにもなった。

 だが01年に加入した当時、バルセロナの監督を務めていたルイス・ファン・ハールはリケルメのようなタイプの選手を必要としないシステムを用いていたため、彼は多くの試合で冷遇されることになった。その後移籍したビジャレアルでは欧州において最高の時期を過ごし、チャンピオンズリーグで準決勝まで勝ち上がったのだが、古巣バルセロナが待つパリでの決勝に進出することはできなかった。アーセナルとの準決勝の終了間際に得たPKをリケルメが決められなかったからだ。その後このPK失敗は、リケルメの中傷者たちにとって格好の餌になった。

 その約一カ月後、彼が唯一出場した06年のワールドカップはドイツにPK戦で敗れ準々決勝で幕を閉じた。彼は当時のチームのシンボルだったにもかかわらず、この試合では無念の途中交代を強いられている。

 手続き上の問題でミランとのトヨタカップに出場することはできなかったが、07年に復帰したボカでは自身3度目のリベルタドーレスを制する原動力となった。その後は10年のワールドカップを目標に代表でプレーしていたものの、当時監督を務めていたマラドーナとの確執により自ら出場を拒否することになった。

フットボール界でやるべきことはやり尽くした

 その後、ボカではけがでピッチを離れることが増え、また執行部との関係悪化から度々問題を起こしたこともあり、徐々にクラブから気持ちが離れていった。最大の騒動は12年のリベルタドーレス決勝でコリンチャンスと対戦する当日、試合の数時間前に彼の弟が「試合後に重要な発表がある」とSNS上で発言したことだ。この発言がもたらした反響通り、試合後リケルメは退団の意思を表明し、その後数カ月も試合から離れる時期が続いた。ビアンチが監督に復帰した後は再びピッチに立ったものの、恩師の指揮下でも過去の成功を繰り返すことはできなかった。

 ボカ退団後は10代を過ごしたアルヘンティノスに復帰し、2部リーグでプレーした。その際、多くの人々は彼がクラブのお荷物となり、ほとんどプレーすることもないだろうと予想していたのだが、実際はチームの中心として活躍し、苦しみながらも1部昇格を成し遂げた。そしてそのシーズンを最後に、選手としてフットボール界でやるべきことはやり尽くしたとの考えに至ったのである。

 リケルメの引退により、フットボール界はまた一人“10番”の生き残りを、偉大なるパサーを、卓越したテクニックを、そしてラ・ボンボネーラ(ボカのホームスタジアム)でマリオ・ジェペスに技ありの股抜きを見舞った01年のスーペルクラシコに代表される素晴らしい瞬間の数々を失うことになった。

 フットボールはこの先ずっと、彼のプレーを懐かしむことになるだろう。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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