アジアの“ハブ”となりつつあるJリーグ 日々是亜州杯2015(1月17日)
「われわれは優勝候補には値していない」
それにしても今大会における韓国の影の薄さはどうしたことだろう。前回大会は、パク・チソンが代表からの引退を表明していたこともあり、第1回大会(1956年)、第2回大会(60年)以来となるアジア制覇を至上命題としていた。結果として準決勝で日本にPK戦で敗れてしまったが、ウズベキスタンに勝利して3位を獲得。また得点王にク・ジャチョルが輝くなど(5得点)、この大会の韓国はそれなりの存在感を示していた。
ところが4年前とは打って変わって、今大会の韓国はどうにもさえない。そもそも組み合わせ抽選会からして、FIFA(国際サッカー連盟)ランキングの低下によりシードから漏れてしまい、いきなり開催国オーストラリアと同組になってしまった。アジアカップ開幕後も、低調なパフォーマンスに終始。初戦のオマーン戦、第2戦のクウェート戦はいずれも1−0で勝利したものの、どちらも薄氷を踏むような試合展開であった。
それだけではない。オマーン戦では、イ・チョンヨンが右足のすねの骨にヒビが入る負傷を負って、あえなくリタイア。さらに、ソン・フンミン、ク・ジャチョル、キム・ジョンヒョンといった主力選手が相次いで風邪をひいてしまうなど、今大会の韓国は立て続けにアクシデントに見舞われた。そのためクウェート戦では、ベンチ入りした選手は18名、実際にプレーできたのはわずかに14名という体たらく。韓国を率いるウリ・シュティーリケ監督は、「われわれは優勝候補には値していない」と語り、韓国国内では選手の体調管理に後手を踏んだ代表チームへの批判が渦巻いている。このホスト国オーストラリアとの第3戦も、戦前の韓国に対する評価は、決して芳しいものではなかった。
アクシデントが続く今大会の韓国
「95分以上もの間、両チームの選手がこの暑さの中で素晴らしいプレーを見せてくれた。今日のゲームは、グループステージという印象ではなかった。選手たちまた、この試合をファイナルのように感じていた。私としては、この試合が今後の試合へのベンチマーク(基準)となることを願っている」
韓国のシュティーリケ監督は、今日の結果に満面の笑みを浮かべることなく、淡々とした表情で会見に応じていた。韓国の決勝ゴールが生まれたのは前半32分。競り合いで負傷したパク・チュホが担架で運ばれ、ゲームがいったん中断していた直後だった(41分にパク・チュホはハン・グギョンと交代)。韓国はスローインのリスタートからキ・ソンヨンが左サイドでボールを受け、縦方向にスルーパスを送る。そこに走りこんできたイ・グノが、角度のないところから低いクロスを放ち、これをイ・ジョンヒョプがスライディングで飛び込んでゴール右隅に決めた。
その後、オーストラリアはベンチに温存していたマシュー・レッキー、ティム・ケーヒル、ロビー・クルーズを相次いで投入するも、相手にほとんど裏をとらせない韓国の堅牢な守備に阻まれ、なかなか決定的なチャンスを作れない。ポゼッションでは上回っているものの、パスミスを拾われては相手の逆襲を受け、しかも暑さと疲労から守備陣が追いつけないシーンが再三繰り返された。オーストラリアは次第に焦燥感を募らせ、経験豊かなケーヒルでさえ苛立ちを隠そうとはしない。ゲーム終盤には、韓国の守護神キム・ジンヒョンが闘争心溢れるプレーを連発。トータル7分間にもおよぶアディショナルタイムを経て、韓国が1−0でホスト国オーストラリアを下した。
かくして、オーストラリアに代わってグループ1位通過となった韓国。しかし今後のトーナメントに向けて、不安要素確実に存在する。それは負傷者の多さ。この試合ではパク・チュホに続いて、ク・ジャチョルも後半早々に負傷退場でピッチを後にしている。「パク・チュホはそれほど深刻ではないが、ク・ジャチョルは病院で精密検査を受ける必要がある」とシュティーリケ。負傷者とコンディション不良の選手が続出する中、55年ぶりのアジア王者に向けた韓国のギリギリの戦いは、まだしばらく続きそうだ。
アジアカップで活躍する多くの元Jリーガーたち
一方のオーストラリアには、この日キャプテンマークを巻いたマーク・ミリガン(元ジェフ千葉)、マシュー・スピラノビッチ(元浦和レッズ)という2人の元Jリーガーがそろってピッチに立っていた。それぞれのクラブのサポーターにとっては、ちょっとうれしい“再会”となったのではないか。
このところ「大物の外国人選手がなかなか来ない」と言われて久しいJリーグ。だが、ちょっと視点を変えてみると、アジアカップという大舞台にこれだけ多くの元Jリーガーを輩出しているのは、ちょっと誇らしく思えてしまう。その一方で、アジアカップ出場国のうち、Jリーグ経験者が韓国、オーストラリア、北朝鮮の3カ国に限られているのは、ちょっと寂しいような気もする。個人的には、ウズベキスタンのセルベル・ジェパロフ、イラクのユニス・マフムード、中国のチャン・チェンドンあたりが日本でプレーすると、けっこう面白い化学反応が生まれるのではないかと夢想している。
そういえば大会期間中、元サンフレッチェ広島の高萩洋次郎が、Aリーグのウェスタン・シドニー・ワンダラーズに移籍したことが発表された。かつてこのクラブに所属していた小野伸二(現コンサドーレ札幌)と同様、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)のグループリーグおよびラウンド16限定の短期契約となるが、今後はさらに日豪間で選手の往来が密になるような予感を覚える。Jリーグが今後、さらにアジアサッカーの“ハブ”(ネットワークの中心)となっていけば、オーストラリア以外の国々とも頻繁な選手の行き来が生まれ、ひいてはそれがアジアにおけるJリーグのステータスアップにつながっていくのではないか。そんな夢を抱かせる、今回の豪韓戦であった。
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