アジアの“ハブ”となりつつあるJリーグ 日々是亜州杯2015(1月17日)

宇都宮徹壱

「われわれは優勝候補には値していない」

試合前に記念撮影に興じる韓国のサポーター。今大会の韓国はどういうわけか影が薄い 【宇都宮徹壱】

 大会9日目。この日はグループAの最終節、ニューカッスルではオマーン対クウェートが、そしてここブリスベンではオーストラリア対韓国が行われる。すでにこのグループは、オマーンとクウェートのグループリーグ敗退が決まっており、ブリスベンでのゲームでグループの1位と2位が決する。日本が順当にグループDを1位通過した場合、グループAの2位とは準決勝で、そして1位とは決勝で対戦する可能性が高い。連覇を狙う日本にとっても注目すべき一戦であった。

 それにしても今大会における韓国の影の薄さはどうしたことだろう。前回大会は、パク・チソンが代表からの引退を表明していたこともあり、第1回大会(1956年)、第2回大会(60年)以来となるアジア制覇を至上命題としていた。結果として準決勝で日本にPK戦で敗れてしまったが、ウズベキスタンに勝利して3位を獲得。また得点王にク・ジャチョルが輝くなど(5得点)、この大会の韓国はそれなりの存在感を示していた。

 ところが4年前とは打って変わって、今大会の韓国はどうにもさえない。そもそも組み合わせ抽選会からして、FIFA(国際サッカー連盟)ランキングの低下によりシードから漏れてしまい、いきなり開催国オーストラリアと同組になってしまった。アジアカップ開幕後も、低調なパフォーマンスに終始。初戦のオマーン戦、第2戦のクウェート戦はいずれも1−0で勝利したものの、どちらも薄氷を踏むような試合展開であった。

 それだけではない。オマーン戦では、イ・チョンヨンが右足のすねの骨にヒビが入る負傷を負って、あえなくリタイア。さらに、ソン・フンミン、ク・ジャチョル、キム・ジョンヒョンといった主力選手が相次いで風邪をひいてしまうなど、今大会の韓国は立て続けにアクシデントに見舞われた。そのためクウェート戦では、ベンチ入りした選手は18名、実際にプレーできたのはわずかに14名という体たらく。韓国を率いるウリ・シュティーリケ監督は、「われわれは優勝候補には値していない」と語り、韓国国内では選手の体調管理に後手を踏んだ代表チームへの批判が渦巻いている。このホスト国オーストラリアとの第3戦も、戦前の韓国に対する評価は、決して芳しいものではなかった。

アクシデントが続く今大会の韓国

決勝戦さながらの熱い戦いが繰り広げられたオーストラリア対韓国の試合。試合終了後には多くの選手がピッチに倒れこんだ 【写真:ロイター/アフロ】

 試合が終わった瞬間、勝った韓国も敗れたオーストラリアも、多くの選手がピッチに倒れこんでしまった。グループリーグの3試合が終わり、オーストラリアは8ゴールで得失点差が+6、一方の韓国は3ゴールで得失点差が+3。しかし、イ・ジョンヒョプによるたった1つのゴールによって、両者の立場はものの見事に逆転した。

「95分以上もの間、両チームの選手がこの暑さの中で素晴らしいプレーを見せてくれた。今日のゲームは、グループステージという印象ではなかった。選手たちまた、この試合をファイナルのように感じていた。私としては、この試合が今後の試合へのベンチマーク(基準)となることを願っている」

 韓国のシュティーリケ監督は、今日の結果に満面の笑みを浮かべることなく、淡々とした表情で会見に応じていた。韓国の決勝ゴールが生まれたのは前半32分。競り合いで負傷したパク・チュホが担架で運ばれ、ゲームがいったん中断していた直後だった(41分にパク・チュホはハン・グギョンと交代)。韓国はスローインのリスタートからキ・ソンヨンが左サイドでボールを受け、縦方向にスルーパスを送る。そこに走りこんできたイ・グノが、角度のないところから低いクロスを放ち、これをイ・ジョンヒョプがスライディングで飛び込んでゴール右隅に決めた。

 その後、オーストラリアはベンチに温存していたマシュー・レッキー、ティム・ケーヒル、ロビー・クルーズを相次いで投入するも、相手にほとんど裏をとらせない韓国の堅牢な守備に阻まれ、なかなか決定的なチャンスを作れない。ポゼッションでは上回っているものの、パスミスを拾われては相手の逆襲を受け、しかも暑さと疲労から守備陣が追いつけないシーンが再三繰り返された。オーストラリアは次第に焦燥感を募らせ、経験豊かなケーヒルでさえ苛立ちを隠そうとはしない。ゲーム終盤には、韓国の守護神キム・ジンヒョンが闘争心溢れるプレーを連発。トータル7分間にもおよぶアディショナルタイムを経て、韓国が1−0でホスト国オーストラリアを下した。

 かくして、オーストラリアに代わってグループ1位通過となった韓国。しかし今後のトーナメントに向けて、不安要素確実に存在する。それは負傷者の多さ。この試合ではパク・チュホに続いて、ク・ジャチョルも後半早々に負傷退場でピッチを後にしている。「パク・チュホはそれほど深刻ではないが、ク・ジャチョルは病院で精密検査を受ける必要がある」とシュティーリケ。負傷者とコンディション不良の選手が続出する中、55年ぶりのアジア王者に向けた韓国のギリギリの戦いは、まだしばらく続きそうだ。

アジアカップで活躍する多くの元Jリーガーたち

柏レイソルに所属しているキム・チャンス(中央)は、オーストラリア戦でスタメン出場した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 さて、この日の試合について、少し違った視点から考えてみたい。それは「Jリーグ経験者の多さ」である。韓国のスターティングイレブンには、キム・ジンヒョン(セレッソ大阪)とキム・チャンス(柏レイソル)という2人の現役Jリーガーがいた。これに、この日アシストを決めたイ・グノ(元ジュビロ磐田、ガンバ大阪)、カク・テヒ(元京都サンガF.C.)、キム・ヨングォン(元FC東京、大宮アルディージャ)など、実に11人中7人がJリーグ経験者だったのである。

 一方のオーストラリアには、この日キャプテンマークを巻いたマーク・ミリガン(元ジェフ千葉)、マシュー・スピラノビッチ(元浦和レッズ)という2人の元Jリーガーがそろってピッチに立っていた。それぞれのクラブのサポーターにとっては、ちょっとうれしい“再会”となったのではないか。

 このところ「大物の外国人選手がなかなか来ない」と言われて久しいJリーグ。だが、ちょっと視点を変えてみると、アジアカップという大舞台にこれだけ多くの元Jリーガーを輩出しているのは、ちょっと誇らしく思えてしまう。その一方で、アジアカップ出場国のうち、Jリーグ経験者が韓国、オーストラリア、北朝鮮の3カ国に限られているのは、ちょっと寂しいような気もする。個人的には、ウズベキスタンのセルベル・ジェパロフ、イラクのユニス・マフムード、中国のチャン・チェンドンあたりが日本でプレーすると、けっこう面白い化学反応が生まれるのではないかと夢想している。

 そういえば大会期間中、元サンフレッチェ広島の高萩洋次郎が、Aリーグのウェスタン・シドニー・ワンダラーズに移籍したことが発表された。かつてこのクラブに所属していた小野伸二(現コンサドーレ札幌)と同様、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)のグループリーグおよびラウンド16限定の短期契約となるが、今後はさらに日豪間で選手の往来が密になるような予感を覚える。Jリーグが今後、さらにアジアサッカーの“ハブ”(ネットワークの中心)となっていけば、オーストラリア以外の国々とも頻繁な選手の行き来が生まれ、ひいてはそれがアジアにおけるJリーグのステータスアップにつながっていくのではないか。そんな夢を抱かせる、今回の豪韓戦であった。
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著者プロフィール

宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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