“原点回帰”を感じた高校選手権 現代の育成年代サッカーに反映されたもの

川端暁彦

優勝した星稜の生命線

優勝した星稜で際立っていたのは、コンタクトプレーの強さ。五分五分の競り合いのほとんどを制していた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 走ること。競ること。そしてそれらを繰り返すこと。当然、ボールを正確に蹴ることを含めて、よりプリミティブな、つまりサッカーの原初的な価値観が見直されていること自体が一つのトレンドだ。これは高校サッカー選手権という舞台においても、やはり同様だった。あえてものすごく大雑把に言ってしまえば、走れて競れて、なおかつうまい。そんなチームが勝った今大会だった。

 優勝した星稜で際立っていたのは、コンタクトプレーの強さだった。五分五分の競り合いのほとんどを制してしまうコンタクトの強さを個々の選手が持っていたし、そういう球際の戦いで勝てる選手が起用されるのだという共通認識もあった。加えて走力の高さも際立つもの。特に誰がよく走っていたという話ではなく、全員がよく走るチームだった。「河崎護監督は走れない選手は絶対に使わない」と語っていたのは、鈴木大誠主将。決勝で殊勲の2得点を挙げたエース格のFW森山泰希にしても、「走れない」との理由で起用されなかった時期もあったほど。FWの忠実なプレスバック(相手の中盤の選手をFWとMFで挟み込むことを狙うプレー)と競り合いの強さは攻守で星稜の生命線。それがあった上で個々の技術も水準以上。飛び抜けた選手がいたわけではないが、全体に選手層も厚く、穴のないチームだった。

 準優勝の前橋育英(群馬)も、今年は攻撃陣のプレスバックを徹底したチームだった。良くも悪くもタレントで押し切ろうとしてしまう傾向のあるチームだったが、今年は徹頭徹尾チームプレー優先。叩き込まれた守備意識と攻守の切り替えスピードは例年になく高く保たれており、ポゼッションスタイルのチームが陥りがちな、ショートカウンターに対する弱さもほとんど見せなかった。決勝は会場の雰囲気にのみ込まれてしまった感もあったが、それでも前橋育英がよく訓練され、連動した動きのできる好チームとして記憶に残ったのは間違いない。

4強に現れた勝つチームの要件

ベスト4の流通経済大柏も「走る」「競れる」「切り替えられる」「そして技術も水準以上」の勝つチームの要件を備えたハイレベルなチームだった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 4強の流通経済大柏(千葉)もやはり「走る」「競れる」「切り替えられる」「そして技術も水準以上」と、勝つチームの要件を備えたハイレベルなチームだった。目まぐるしく切り替わる攻守に対応し続ける走力と、日々の練習から培ってきた球際の“バトル”に対する耐性の高さは特筆もの。準々決勝で対戦した立正大淞南(島根)の南健司監督は、「スライディングのうまさ」に驚嘆していたが、おろそかになりがちな守備のスキルをキチンと徹底しているのも印象的だった。

 もう一つの4強だった日大藤沢(神奈川)は少し趣が異なり、チーム随一の攻撃のタレントであるFW田場ディエゴなどは守備を少々サボりがち。やや凸凹な部分のある選手たちが互いの短所を補い合いながら高い補完関係を築くことで、チームとして一段上のレベルを現出させていた。準決勝では力及ばず敗れた印象もあるが、36歳の佐藤輝勝監督がこの経験を踏まえて来年以降にどんなチームを作り上げていくのかは、楽しみなところだ。

 高校選手権の少し前に行われたJユースカップでも、チームとして「球際で戦うこと」「相手より走ること」「切り替えを速くすること」を徹底して強調していたJユース界の異質なクラブ、「高体連のチームみたいとよく言われる」(熊谷浩二監督)鹿島アントラーズユースが優勝を飾った。一周回ってプリミティブな価値観がより強調されるようになってきた現代サッカーのトレンドは、日本の育成年代にも色濃く反映されてきている。

 高い強度の中でより走り、競り合い、切り替え、そしてそれらを繰り返す。その上で技術的精度を発揮していく。そんな選手を育てなければ国内でも勝てない。少なくとも高校サッカー選手権は世界的トレンドと同じく、もう一度そういった「フットボールの原点」が強調される大会になっていることは、間違いない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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