特別な眼差しを浴びる小林誠司の2015年 阿部の後継者へ、勝負の1年が始まる

中島大輔

巨人が探し求めた「捕手・阿部」の後継者

阿部の一塁転向によって、プロ1年目以上の期待が注がれている小林 【スポーツナビ】

 2013年初夏、しばらくアマチュアを見て回っていたという巨人の編成担当に「面白い選手はいましたか?」とストレートな質問をぶつけたことがある。編成担当は「よく、そんなに直接的に聞くね」と笑うと、「捕手を見ている」と教えてくれた。それから数カ月後、ドラフト1位で指名されたのが、小林誠司(当時日本生命)だった。

 13年ドラフトでプロ入りした捕手には、森友哉(大阪桐蔭高→埼玉西武1位)、内田靖人(常総学院高→東北楽天2位)、吉田裕太(立正大→千葉ロッテ2位)、嶺井博希(亜細亜大→横浜DeNA3位)、梅野隆太郎(福岡大→阪神4位)らがいる。その中から巨人に選ばれた小林は、プロ入り1年目の昨季、周囲から特別な眼差しを浴び続けた。

 果たして、小林は阿部慎之助の後継者として十分な資質があるのか――。

自信をつかんだ14年シーズン

プロ1年目は「思った以上に自信を持てるシーズンだった」と振り返る 【スポーツナビ】

 チームが長らく抱えてきた命題のキーマンは、14年12月22日、来たるシーズンから着るアンダーアーマー製の新ユニホームに身を包み、プロ1年目をこう振り返っている。

「楽しみにしていた部分と不安な気持ちは正直、五分五分くらいでした。思った以上に自信を持てるシーズンだったかなと思います。1年間終わってみてから、そういう自信を持てるようになりましたね。シーズン中はとにかく必死で、全力で。与えられるチャンスは少ないと思っていたので、『何とかそのチャンスで』と思っていました」

 新人捕手として阿部以来となる開幕戦出場を果たした小林は、計63試合に出場した。そのうち先発マスクをかぶったのは29試合。なかでも最も光ったのは、“鬼肩”と言われたほどのスローイングだ。規定試合数(72試合)にこそ達していないものの、盗塁阻止率4割1分7厘はリーグ最高のDeNA・黒羽根利規(3割9分5厘)や阿部(2割7分3厘)、梅野(2割6分3厘)を上回っている。
 一方、打っては打率2割5分5厘と悪くない数字だった。4月18日の中日戦で先制タイムリーを放つなど、得点圏打率3割3分3厘とチャンスで仕事を果たしている。「打撃が課題」という前評判は、自らの手で覆したと言っていいだろう。

 通常の新人捕手なら、十分に及第点をつけられる成績だ。だが、小林の評価基準は極めて高い。比較される対象は、球史でもトップクラスのキャッチャーである阿部なのだ。

果たして正捕手の座をつかみ取れるか

正捕手の座を目指す15年シーズン、果たしてポジションをつかむことができるだろうか 【写真は共同】

 捕手ほど、過酷なポジションはない。投手や内野、外野には複数のイスがあるが、捕手として試合に出場できるのは必ず1人だ。しかも巨人では、その位置を阿部が01年から守り続けてきた。偉大すぎる先輩と1つのイスを争った経験は、小林にとってどんな財産となったのだろうか。

「阿部さんを見ながら、いろんなものを吸収して、すごく勉強になった部分はたくさんありました。周りへの気配り、コミュニケーション、コミュニケーションをとるタイミング。野球の技術はもちろん、周りへの気配りとか、気遣いはさすがだなと思いましたね。その中でチャンスは少ないですけど、必ず来ることを信じて、日々の練習で全力をやることを心の中に持ちながら、試合の中で悔いのないようにやろうと決めていたので。そういった面では、年間通してできたと思います」

 阿部の背中を追いかけて正捕手を目指すという、ある意味過酷で、同時に貴重な時間は図らずも1年間で終わった。そして迎える15年、チームは東京ヤクルトから相川亮二をFAで迎える。チームマネジメントという観点では当然の補強だが、うがった見方をすれば、「小林が期待通りに伸びなくても、数年は相川が控えている」と言うこともできる。

 そうした状況で迎える来季に向け、小林はどんな心境でいるのだろうか。
「阿部さんがファーストを守るということで、来年は今年以上に試合に出て活躍したいという気持ちです。それとリーグ優勝、日本一奪回の力に必ずなりたいと思っているので、『そのためには自分が』という気持ちはもちろんあります。みんなにチャンスがあるわけなので、その競争に勝てるようにトレーニングを積みながら準備をしていきたい」

 直接口にこそしないが、目指す先はもちろん正捕手だ。
「そうですね。本当に強い気持ちを持って、どれだけそのポジションを守りたいかと強い気持ちを持った選手が守れると思うので。それだけの強い気持ちと、自信を持てるくらいの練習をして、勝負していきたいと思っています」

 昨季、小林は才能の片鱗を見せた一方、阿部の後継者になり得るかは、まだ答えが出ていない。前任者とは違うスタイルを武器に、果たして正捕手の座をつかみ取ることはできるだろうか。

 2015年、小林は前年以上に特別な眼差しを浴びることになる。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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