流通経済大柏が作陽を破り初戦突破 “PK戦のみ”出場のGK瀬口が殊勲

鈴木潤

“PK戦のみ”出場した流通経済大柏のGK瀬口。作陽のシュートをセーブし、初戦突破の立役者となった 【写真は共同】

 全国高校サッカー選手権大会の1回戦が31日に行われ、作陽(岡山)と対戦した流通経済大柏(以下、流経大柏/千葉)は3−3からのPK戦を8−7で制した。

 試合が開催されたフクダ電子アリーナで非常に珍しい光景を目にした。後半アディショナルタイムに流経大柏が同点に追い付き、試合は3−3で終了、PK戦へと突入した。なんとそのPK戦に入る直前、アシスタントレフェリーが交代のボードを掲げ、GKの鳥井翔太に代わって瀬口隼季が投入されるのである。

 吾妻俊治マッチコミッショナーによれば、流経大柏は交代枠を1つ残しており、GKの鳥井がラストプレーで膝を負傷してPK戦は不可能という事情により、作陽サイドにも了承を得た結果、「特例ではあるがルール上は問題ない」という判断で、試合終了後の選手交代が認められたのである。

 この交代によって“PK戦のみ”という珍しい出場機会が巡ってきたのが、サブGKの瀬口だ。千葉県予選では登録メンバーにも入っていなかった2年生だが、「緊張はしていなかった」と強心臓ぶりを見せ、見事に作陽の8人目・谷口翔大のキックをストップし、2回戦進出の立役者となった。

 しかし瀬口は、度々選手権の舞台で目にする“PK職人”のGKではない。むしろ、PKには強いのかと問われると「全然強くないです。弱いぐらいです」と真っ向から否定をする。しかも公式戦の経験も豊富ではなく、「PK戦も今日が初めてです」と明かした。

 ただ、瀬口には自信があった。県予選ではメンバーに入れなかったが、本人は「選手権のメンバー入りはあると思っていた」と話しており、実は千葉県大会決勝後、練習では主力組に入って起用される機会が増え、周囲の選手たちは「選手権では瀬口で行くのかもしれない」と思っていたという。出場の準備、心構えはすでにでき上がっていた。今回のPK戦の最中にも、「止める! 止める!」と実際に声を発して自分自身に暗示をかけ、彼のその強い思いが勝利を手繰り寄せたようにも見える。

 まだ検査の結果が出ていないため、鳥井のけがの状態については明らかになっていないが、本田裕一郎監督は「前十字を痛めたと思う」と話している。今後、もし鳥井が欠場となれば、2回戦以降は瀬口に出番が回ってくる可能性は高い。

「準備はしてきたので、次の試合で出場しても全く問題ないと思っています。自信はあります」。そう言って物怖じする様子を全く見せない2年生GK、瀬口隼季は流経大柏のラッキーボーイになれるか。注目したい。
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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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