本田に与えられた戦術的タスクの変化 ナポリ戦のポジションは“右のトップ下”

片野道郎

総合的に見れば「可もなく不可もない」

2−0で勝利したナポリ戦。本田に与えられていた戦術的タスクはこれまでと異なるものだった 【Getty Images】

 前節はジェノアのアグレッシブなプレッシングに悩まされて攻撃を組み立てることができず、セットプレー(CK)から喫したゴールが決勝点となって4試合ぶりの黒星を喫したミラン。しかし、ホームのサン・シーロにナポリを迎えた14日の第15節は、開始6分に早くもジェレミ・メネスのゴールで先制、後半開始から間もない52分にジャコモ・ボナヴェントゥーラがヘディングで追加点を決め、残る40分を落ち着いて守り切るという説得力のある内容で、シーズン6勝目を挙げた。

 これで勝ち点でもナポリに並びかけ、順位は前節の7位から6位に浮上。シーズンの目標である3位(来季のチャンピオンズリーグプレーオフ出場権)までわずか2ポイントという好位置まで浮上してきた。

 試合前はベンチスタートの予想もあった本田圭佑は、今シーズン14試合目となるスタメン出場を果たして90分間プレー、決定機に絡む場面こそなかったものの、攻守両局面においてコンスタントにチームに貢献して試合を終えた。

 シュートはエリア外からのミドル1本、アタッキングサードでのボールタッチも15回ほどに留まるなど、こと「最後の30メートル」に関しては目立った働きがない試合ではあった。とはいえ、チームのメカニズムの中で果たすべき仕事はきっちり果たしており、ピンチにつながるようなボールロストやパスミスもなしと、総合的に見れば「可もなく不可もない」パフォーマンス。おそらく翌日のマスコミの採点は、攻撃における貢献度に焦点を合わせて「5.5」をつける記者もいれば、トータルでの貢献度を評価して「6」をつける記者もいることだろう。

 いずれにしても確かなのは、この試合でも本田は攻守両局面においてチームの中で機能していたこと、そしてその結果として決して簡単な相手ではないナポリに対して2−0の完勝にポジティブな貢献を果たしたということ。ただ今回は、その役回りが「主役」ではなく「脇役」だったというだけである。

2人のトップ下で作るCB背後の「穴」

 この試合の前半、本田に与えられた戦術的なタスクは、これまでとは異なるものだった。フィリッポ・インザーギ監督がピッチに送り出した布陣は、今シーズンの基本である4−3−3ではなく4−3−2−1。両者の違いはまさに、右サイドの本田と左サイドのボナヴェントゥーラが、ワイドに開くのではなく内に絞ったポジションを取って、敵の2ライン(MFとDF)の間でトップ下的に振る舞うところにある。

 実際、本田は攻撃の局面では2トップの一角を占めているかのように高い位置を取ることが多く、中盤まで下がってきて組み立てに絡む頻度は、普段と比べるとずっと少なかった。これは、本田がそれをサボったわけではなく、与えられたタスクがいつもとは異なっていたためだ。

 4−3−3のウイングとして開いたポジションでプレーする場合、本田をマークするのは主に敵のサイドバック(SB)の仕事になる(この試合ではファウジ・グラム)。しかし4−3−2−1のトップ下として絞り気味のポジションを取ると、SBよりもむしろセンターバック(CB)の担当ゾーンに入り込んでプレーするケースが多くなる。これは、逆サイドのボナヴェントゥーラについても同じだ。

 そして、インザーギが4−3−3ではなく4−3−2−1を採用した狙いはまさに、この「トップ下がCBにマークされる状況を作る」ことにあった。

 トップ下が2ライン間の内に絞った位置で縦パスを受ければ、そのゾーンを見ているCBが飛び出して対応せざるを得ない。そうなるとそのCBの背後には、必然的に「穴」が生まれる。その「穴」にセンターFW(CF)のメネスが走り込んでパスを受ければ、GKと1対1になる決定的なチャンスが作り出せる――。

 インザーギが試合後のインタビューで明かしたところによれば、スタッフと一緒に昨シーズンのナポリ戦を研究した結果、この4−3−2−1で相手を困難に陥れる場面が何度もあったので、この試合でもそれを採用したのだという。

インザーギの狙い通りに奪った先制点

狙い通りの形で奪った先制点に、インザーギ監督もうれしそうなコメントを残した 【Getty Images】

 前半6分に決まった先制ゴールは、まさにその狙い通りの形から生まれたものだった。ただし、それに絡んだトップ下は右の本田ではなく、左のボナヴェントゥーラだったのだが……。

 リッカルド・モントリーヴォが中盤左サイドをドリブルで持ち上がって、2ライン間左寄りにポジションを取っていたボナヴェントゥーラに縦パス。これに対応するためにナポリの右CBラウル・アルビオルが飛び出すのに合わせて、中盤に引いていたメネスがその背後の「穴」に走り込んでボナヴェントゥーラのスルーパスを引き出す。寄せてきた左CBのカリドゥ・クリバリーをかわしてシュート、というのがゴールまでの流れ。そのはまり具合は、インザーギ監督が試合後「週の間に試していたパターンがその通りに決まった」とうれしそうにコメントしたほどだった。

 ちなみにこの場面で本田は、左サイドでプレーが展開しているのを視野に収めつつ、2ライン間中央、ナポリの左CBクリバリーと左SBグラムの間にポジションを取って、2人をくぎ付けにしつつボナヴェントゥーラにもうひとつのパスコースを提供。その後メネスの突破に合わせて中央に全力で走り込みゴール前に詰めるという動きを見せている。この走り込みでは、いったん外に膨らんでグラムの視界から消え、そこから中に入ってその前を取るというコース取りで、ゴール前中央でフリーになっていた。メネスが直接シュートを打ったためフィニッシュに絡むことはなかったが、点を取るためのFW的な動きの質には、着実に磨きがかかっている。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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