本田に与えられた戦術的タスクの変化 ナポリ戦のポジションは“右のトップ下”

片野道郎

攻撃に絡む機会が少なかった理由

本田が攻撃に絡む機会が少なかった理由は、左サイドのモントリーヴォ(左)が組み立ての中心になっていたから 【Getty Images】

 さて、この試合で本田が攻撃に絡む機会が少なかった最大の理由は、上記の先制ゴールの場面で見られたモントリーヴォ、ボナヴェントゥーラ、メネスという左サイドのルートが、ミランの組み立ての中心になっていたことにある。

 ブラジルワールドカップ直前に負った足首の骨折による長期離脱から復帰し、前節ジェノア戦からスタメンに入った主将モントリーヴォは、ミランの中盤で最もパスセンスに優れ、ゲームメーカー的な役割を担うプレーヤー。必然的に、攻撃は多くが彼を経由して組み立てられることになる。

 起用されるMFの顔ぶれによって左右どちらのインサイドハーフとしてもプレーできるが、この日の中盤はアンドレア・ポーリが右、モントリーヴォが左という構成だった。モントリーヴォは、最終ライン、あるいはアンカーのナイジェル・デ・ヨングからパスを受け、そこからタイミングと精度を兼ね備えた質の高い縦パスを前線のボナヴェントゥーラ、メネスに送り込むことができる。しかしポーリは運動量と献身性、プレーの「質」よりも「量」を持ち味とするプレーヤー。本田が2ライン間でマークを外しても、そこにタイミング良く縦パスを送り込むクオリティーは持っていない。

 また、モントリーヴォが攻撃的に振る舞うのに対応して、ポーリはボールのラインより後ろに残って攻守のバランスを取る役割を担う頻度がどうしても高くなる。さらに、CFのメネスも左サイドに流れてプレーするのを好む傾向があるため、以前にもしばしば見られたように、チーム全体として左サイドから攻撃を組み立てようという意識が強くなった。

 右サイドにボールが回ってくるのは、右SBのダニエレ・ボネーラが敵陣まで攻め上がったところにパスが入った時くらい。その時には本田も中央からそこに寄って行ってボールに絡もうとするが、マーカーを背負いゴールに背を向ける形になるので、パスを受けても前を向けず、そのままボネーラにボールを戻す形がどうしても多くなった。ボネーラはさらにCBやアンカーに下げ、そこから今度は左サイドに展開して攻撃を組み立て直すという流れになる。

 前半を通して、本田がいい形でボールに絡んでチャンスにつなげたのは、右サイドの深いところでボネーラと絡み、珍しく縦に走り込んできたポーリにパスを流してシュートを打たせた34分の場面くらい。とはいえ全体として見れば、ミランはほぼ常に主導権を握って試合を運び、二度ほどカウンターから危険な状況に陥った以外はよく試合をコントロール、1−0のままハーフタイムを迎えた。

2点目を奪い、チームの重心が下がる

 迎えた後半、インザーギ監督は本田とボナヴェントゥーラのポジションを外に開かせて、4−3−2−1から4−3−3にシステムを修正、チームのバランスを取り直す。4−3−2−1で戦った前半は、守備の局面でも本田とボナヴェントゥーラが内に絞ったポジションを保ち、敵のSBにプレッシャーをかける仕事はインサイドハーフ(モントリーヴォとポーリ)が外に飛び出して担うという仕組みだった。しかしこれを90分間続けるのは、故障明けのモントリーヴォには負担が大きいという判断もあって、外に開いたウイングが敵SBを見る4−3−3にシステムを戻したというのが、変更の理由だったようだ。

 そして、このシステム変更が攻撃でうまく機能する。後半開始から7分足らず、例によって左サイドでメネス、モントリーヴォ、ボナヴェントゥーラが絡んでパスを回す流れから、ライン際を駆け上がった左SBパブロ・アルメロがサイドを深くえぐってニアサイドにクロスを折り返す。これを、タイミングよく中に走り込んだボナヴェントゥーラが頭で合わせて2−0。SBのオーバーラップをうまく使った4−3−3の典型のようなコンビネーションで追加点を挙げたミランが、試合の流れを完全に手中に収めた。

 2点をリードしたミランは、チームの重心を低めに保って受けに回る戦い方にシフト。右ウイングの本田も自陣まで戻って中盤のラインに加わり、スペースを埋めつつ対面のグラムの攻め上がりをチェックするという、地味ながら重要な仕事を献身的にこなしてチームに貢献する。サイドに開いたことで、ボネーラからの縦パスを受ける頻度は高くなったが、チームの重心が下がって前に人が少ない上に、無理をしてボールを奪われピンチを招くよりは安全にボールをキープする方を選ぶという、2点リードしているチームとしてはしごくまっとうな判断もあって、そのままボネーラに戻すことがほとんど。

攻撃のバリエーションと厚みを増したミラン

本田は「脇役」に終わったが重要な役割を担い続けている。チームとして攻撃のバリエーションと厚みが増したことはポジティブだ 【Getty Images】

 とはいえ、あまり攻撃に絡めなかったことで消化不良感が募っていたのだろう、終盤の83分に、モントリーヴォがフリーの本田が呼んだにもかかわらず逆サイドのアルメロにパスを出した時には、強い態度で不満をあらわにし、「落ち着け」と返される一幕もあった。その1分後には、最終ラインの裏に走り込む動きでそのモントリーヴォから縦パスを引き出したが、難易度の高いボレーシュートは残念ながら空振り。

 試合の数日前には、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』が、本田のゴールとチームの成績を結びつけて、「本田の調子が悪いとミランは勝てない」という記事を書いたりしたが、この日はその本田がフィニッシュに絡めないながらも、強敵ナポリ相手に2−0の完勝。本田にフォーカスを合わせるならば残念な試合ということになるのかもしれないが、ミランの戦いぶりそのものは、カウンター以外にほとんど攻め手がなかった序盤戦と比べれば、攻撃のバリエーションと厚みを増しつつある。メネスの個人技に対する依存度は依然として高いものの、本田だけではなくボナヴェントゥーラ、モントリーヴォがチームのメカニズムの中で機能して、ビルドアップからチャンスが作れるようになってきた。それは間違いなくポジティブなことである。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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