アギーレ体制の6試合を振り返る 「世代交代」か「ベストメンバー」か?

宇都宮徹壱

「世代交代」を優先するオーストラリア

アギーレ体制の6試合を振り返り、アジア杯に臨む日本代表を展望する 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 9月5日のウルグアイ戦(0−2、札幌)で初陣となったハビエル・アギーレ新監督による新生日本代表は、その後、9月9日のベネズエラ戦(2−2、横浜)、10月10日のジャマイカ戦(1−0、新潟)、10月14日のブラジル戦(0−4、シンガポール)、11月14日のホンジュラス戦(6−0、豊田)と続き、11月18日のオーストラリア戦(2−1、長居)で2014年のすべての試合日程を終えることとなった。周知のとおりアギーレは、この6試合を「アジアカップに向けたベストの23人」を選ぶためのテストと位置付けていた。本稿では、この6試合を振り返りながら、来年1月9日にオーストラリアで開幕するAFCアジアカップ2015(アジア杯)に臨む日本代表について展望することにしたい。

 本題に入る前に、日本の現状を考える上で興味深い比較対象を提示しておく。それは先日対戦したばかりのオーストラリアだ。オーストラリアといえば、14年ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の予選で日本と対戦した際には、世代交代が遅々として進まず、ベテランに依存したチーム事情が何かと話題になっていた。硬直化を招いたホルガー・オジェック前監督は昨年10月に解任。後任のアンジェ・ポステコグルーに託されたミッションは、直近のW杯での好成績ではなく、翌年に自国で開催されるアジア杯、そして4年後のW杯ロシア大会に向けた新世代のチーム作りであった。

「W杯後、アジア杯に向けての準備期間と位置付けて取り組んでいた。特に主眼に置いたのが、新しい選手の発掘。もっとチームに奥行きを持たせたいという意向があったからだ」

 試合前日の会見で、W杯後の4試合の手応えについて問われたポステコグルー監督は、このように語っている。だが、額面通りに受け取ってよいものだろうか。そこで、ブリスベン在住で「豪州番」を自認する同業者の植松久隆さんに、オーストラリアの世代交代の状況について尋ねてみた。

「世代交代自体は進んでいます。ただそれが、戦力アップに直接つながっていないのが辛いところですね。世代交代かベストメンバーかということで言えば、監督は世代交代を第一に考えています。年齢を度外視されているのは、(ティム・)ケーヒルと(マーク・)ブレシアーノくらい。若い選手が定着するようになりましたが、アジア杯に向けた強化としてうまくいっているとは言い難い。日本戦の結果次第では、多少現実路線に傾くかもしれません」

アギーレは「一からチームを作ってW杯に導きたい」?

 すでに新チームになって1年以上が経過し、目先の結果よりも世代交代を優先させているオーストラリアでも、そのプロセスは試行錯誤の連続であったようだ。アギーレの場合も、この6試合の間でたびたび「世代交代」と「ベストメンバー」という二律背反するテーマの中で模索を続けてきた。とはいえオーストラリアと日本とでは、代表監督の経験値がまったく異なる。ここでポステコグルーをこき下ろすつもりはないが、キャリアが国内に限られている彼には、予選のスタートダッシュに失敗したナショナルチームを立て直すとか、降格の危機にあった欧州のクラブを残留させるといった経験はない。

 そんなアギーレも、ナショナルチームを一から率いるという経験は、実は初めてである。彼にはメキシコ代表監督のキャリアが2回あるが(01〜02年、09〜10年)、いずれも最終予選で祖国がピンチに見舞われたときに就任している(そしてW杯終了後、引き続きチームを託されることはなかった)。ことキャリアに関しては、岡田武史元日本代表監督に似ている。これは想像だが、アギーレが欧州でのキャリアをいったん保留にして、はるばる極東の島国にやってきたのは、「一から代表チームを作ってW杯に導きたい」という密かな願望が少なからずあったのではないか。

 さて、注目された9月シリーズのメンバー発表会見では、坂井達弥、松原健、森岡亮太、皆川佑介、武藤嘉紀という、5人の初招集メンバーの名前がリストに載り、大いに話題になった。特に坂井と皆川はまったくノーマークの存在だっただけに、当然ながら会見ではこの点についての質問が出た。それに対するアギーレの答えは、このようなものであった。

「私は過去のリストを見て選んだのではない。たくさんの試合へ視察に行ったし、ビデオもたくさんチェックして、この2試合(ウルグアイ戦とベネズエラ戦)でベストと思われるメンバーをリストアップした。もちろん、これからも選手は見ていく。そして過去の代表に入っていたことを基準にするのではなく、選手を選んでいきたいと思う」

 しかし、積極的に選手を選んでチャレンジさせる一方、致命的なミスをした選手には名誉挽回のチャンスがなかなか与えられなかったのも事実。初戦のウルグアイ戦で失点のきっかけをつくった坂井と酒井宏樹、そして先制のチャンスをつぶした皆川は、その後は招集されていない。ベネズエラ戦でPKを献上してしまった水本裕貴も、その後は招集メンバーには名を連ねることはあっても出番はなし。例外がGKの川島永嗣で、ベネズエラ戦では痛恨のキャッチミスで同点ゴールを献上したにもかかわらず、先発を外されたのはジャマイカ戦のみ。以後は、守護神としての座を約束されている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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