アギーレ体制の6試合を振り返る 「世代交代」か「ベストメンバー」か?

宇都宮徹壱

アギーレの「原点回帰」が意味するもの

11月のホンジュラス戦では、武藤(14番)以外はW杯ブラジル大会のメンバーが先発に並んだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 9月シリーズを1分け1敗で終えたアギーレ体制。続く10月シリーズの招集メンバーは、けがから回復した香川真司、そしてJリーグでの活躍が認められた小林悠、太田宏介などが注目を集めたが、前回のような大抜てきはなく、初招集の選手はゼロ。人選こそ手堅かったものの、その采配ぶりは実にアグレッシブであった。ジャマイカ戦では、本田圭佑と香川が久々にピッチに並び立ち、さらにベネズエラ戦でゴールを決めた武藤と柴崎岳がそろってスタメン出場するなど、必勝体制の布陣で臨んで1−0の勝利。決勝点がオウンゴールだったのはご愛嬌だが、ようやく初勝利を挙げて一息つくことができた。

 ところが続くブラジル戦では、スターティングイレブンのうち7人が1桁キャップ数という、さながら「Jリーグ選抜」のようなチームで挑み、ネイマールの4ゴールでものの見事に粉砕された。アギーレとしては、国際経験に乏しい若い選手に、あえて強烈な負荷をかけることで覚醒を求めていたのかもしれないが、個人的には今でもこの時の指揮官の采配には疑念が拭えずにいる。それでもアギーレの仕事に対しては楽観していた。ファンの間からは「こんなことでアジア杯に間に合うのか?」という危惧の声があちこちで聞かれるようになっても、きっと締め切りから逆算して何かしら手を打ってくるはず。それこそが彼の真骨頂、と考えていたからだ。

 結果、指揮官が見いだした活路は、時計の針を5カ月前に戻すことであった。遠藤保仁、今野泰幸、内田篤人といったブラジルW杯メンバーを初めて招集すると同時に、最初の招集で負傷離脱した長谷部誠を呼び戻すとキャプテンに任命。指揮官自ら「これはテストではない。あくまで勝ちに行く」と明言した11月シリーズの2試合では、いずれもスターティングイレブンの9〜10人をブラジルW杯メンバーが占めることとなった。結果、ホンジュラスには6−0、オーストラリアには2−1と連勝。また、本田を生かすための内田の献身的な動き(ホンジュラス戦)、あるいは4−3−3から4−2−3−1へのスムースな移行(オーストラリア戦)など、随所にアルベルト・ザッケローニ前監督の遺産が遺憾なく発揮された。

 それにしても「結果のためなら何でも利用する」というアギーレの姿勢には、ある種の清々しささえ感じられる。前任者が愛した選手たちを多数起用し、当時定番としていたシステムさえも取り入れてしまうことに対して、この人は何ら抵抗はないようだ。いずれにせよ、この11月シリーズをもってアギーレは「世代交代」よりも「ベストメンバー」に舵を切る決断を下した。当人は「年齢ではなく質を重視する」と語っていたが、換言するなら「質」の面で指揮官を満足させる若手はほぼいなかったことになる。

現時点での「ベストの23人」を予想する

 ということで最後に、来年1月9日に開幕するアジア杯に臨む「ベストの23人」を予想することにしたい。アギーレ体制となってから招集されたメンバーは総勢39人(そのうち出場機会を与えられたのは32人)。まずはこの母集団からポジションごとに予想メンバーを抽出してみた。

GK:川島永嗣、西川周作、東口順昭
DF:森重真人、吉田麻也、酒井高徳、内田篤人、長友佑都、塩谷司、太田宏介、今野泰幸
MF:遠藤保仁、長谷部誠、香川真司、細貝萌、柴崎岳、田口泰士
FW:本田圭佑、岡崎慎司、武藤嘉紀、小林悠、乾貴士、豊田陽平

 GKは、川島、西川に続く第3GKが迷ったが、直近のシリーズで選ばれていることと、所属クラブ(ガンバ大阪)が好調であることを理由に東口を選んだ。DFは7人。センターバック(CB)は、吉田、森重、塩谷以外に2試合以上起用された選手がいないので少し悩んだ。これまでの実績から水本かなとも思ったが、オーストラリア戦でアピールした今野をこのポジションでチョイス。決め手は、他のベテラン選手とのコンビネーションに加えて、CB、ボランチ、サイドバックでも起用できるユーティリティー性があることだ。

 中盤については、さほど悩まずにこの6人が浮かんだ。攻守の若手枠には柴崎と田口が入っている。そしてFWも6人。小林はアギーレ体制になって唯一ノーゴールだが、過去のアギーレの言及や起用から、かなりの期待感が窺える。逆に柿谷曜一朗と大迫勇也は、岡崎のバックアッパーとしてなら考えられるが、乾や豊田のようなインパクトを残せなかったのは厳しいところだ(対戦相手の違いについては、ここではあえて言及しない)。

 一方で、これまで選ばなかった(あるいは事情により選べなかった)選手が招集される可能性についても考えてみた。具体的には、現在リハビリ中の山口蛍、そしてU−19代表で大車輪の活躍を見せた南野拓実(いずれもセレッソ大阪)などである。ただし、彼らのポジションであるMFとFWは、どちらも現状は定員いっぱいという印象。主軸を外すわけにはいかないし、さりとて若手枠を削るのも得策ではない。となると、これ以上の母集団は増えない、と考えるのが現実的なのかもしれない。

 いずれにせよ、アギーレが選ぶ「ベストの23人」は、あまり新味が感じられない顔ぶれとなる公算は高い。「世代交代はどうなったんだ!?」という批判も予想されるが、それを指揮官にぶつけるのはお門違いというものだ。アギーレを雇われシェフと見立てるなら、食材(=選手)の品質管理についての責を負うべきは日本サッカー協会であろう。今年採れた食材よりも、在庫の食材のほうが質が良いと判断したなら、腕の良いシェフがどちらを選ぶかは自明。その点については、ファンはきちんと認識しておく必要がある。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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