滑るWBC球に対応した日本の投手陣 “準備力”が導いた無安打無得点の快挙

中島大輔

目標は球数ではなくイニング数

第3戦、マリナーズ・カノを空振り三振に討ち取った則本−嶋のバッテリー 【写真は共同】

 10月9日に代表メンバーを発表した際、小久保裕紀監督は先発投手陣にWBC球を渡し、事前に練習してくるように伝えた。矢野バッテリーコーチによると、チームが集合して以降は嶋、伊藤光(オリックス)がピッチャー陣と積極的にコミュニケーションを図ってきた。

 キャプテンの嶋がリーダーシップを発揮する理由は、単純明快だ。

「打たれたら悔しいし、ピッチャーもそうだと思います。だからどうしたら抑えられるか、キャッチャーと一緒に考えています。いい結果に結びつくために、最大限、何をできるか。そうやって常に考えてやるようにしています」

 侍ジャパンにとって、今回の日米野球は「2017年WBCに向けた強化試合」という位置付けだ。鹿取義隆投手コーチによると、各ピッチャーに目標登板イニング数が設定されている。

「それぞれのピッチャーが4回1/3くらい投げて、WBCに向けての準備をしようと話しています。少ない選手は3回、多い選手は6、7回。ボールに慣れるため、球数に関係なく、イニングでアジャストしよう、と」

一矢報いたMLB打線に大谷が挑む

 こうして入念に準備を行ったことで投手力を発揮し、1990年以来の日米野球勝ち越しを決めたのだ。対策が報われた結果に、矢野バッテリーコーチは胸を張る。

「メジャーのバッターはこんなものじゃないと思うけど、日本のピッチャーが上回っているのを向こうも認めざるを得ないと思う。メジャーのいい選手が来ているわけだからね」

 第4戦に先発して4回4失点だった藤浪晋太郎(阪神)は、ボール自体は悪くなかったものの、攻め方を間違えたと振り返っている。

「調子自体は悪くなかったのですが、力で勝負を挑みすぎました。4イニングス目のように、最初から丁寧に低めを突くべきでした」

 一方、メジャー選抜はようやく一矢報いた形だ。第3戦までは明らかな調整不足が目に付いたが、第4戦ではヤシエル・プイグ(ドジャース)、モーノー、エバン・ロンゴリア(レイズ)と初戦からスタメンで出続けている打者に当たりが出始め、セカンドのホセ・アルテューベ(アストロズ)も走攻守でいい動きを見せた。

 試合後、先発したクリス・カプアーノ(ヤンキース)はチームの思いを代弁している。

「最初の3試合を落とした後で、われわれにもプライドがある。何とかここで立て直して、良いパフォーマンスを見せたいと思って試合に臨んだ」

 11月18日、舞台を札幌ドームに移して行われる第5戦。状態を上げてきたメジャーリーガーたちを、大谷翔平(北海道日本ハム)が迎え撃つ。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント