新生ユナイテッドに必要な「さしすせそ」 低調要因と“ファン・ハール流”への期待

寺沢薫

3バックは諦めろ

シティー戦で先発出場したロホ(写真右)は、肩の脱臼で途中交代を強いられた 【写真:アフロ】

 プレシーズンから開幕数試合にかけて採用してきたものの、「サイズ違いのスーツに見えた」(BBC)と言われるほど機能しなかった3バックは諦めるべきだろう。初勝利を挙げた9月のQPR戦から、チームは4バックに回帰している。

 とはいえ、慣れ親しんだ4バックでも問題は山積みだ。最大の理由は人員不足。フィル・ジョーンズ、ジョニー・エバンスと2人のセンターバック(CB)が負傷欠場したチェルシー戦とシティー戦は、スモーリングとマルコス・ロホが先発。だが、シティー戦で前者はレッドカード、後者は肩の脱臼でピッチを去った。右サイドバックのラファエル・ダ・シウバも負傷欠場したことから、シティー戦終了時の4枚はMFが2人(ルイス・アントニオ・バレンシアとマイケル・キャリック)、デビュー1年目と加入1年目の10代が2人(パディ・マクネアとルーク・ショー)という、元イングランド代表のジェイミー・レドナップが「今まで見た中で一番酷い」と評した4バックだった。それでも彼らは奮闘したが、最終ラインを固定できないのは大きな問題だ。

 クラブOBのピーター・シュマイケルはチェルシー戦後、コロコロと組み合わせが変わる守備陣についてこう私見を述べている。

「元GKとして言うが、固定された最終ラインは本当に重要だ。お互いの特徴を十分理解しながら守れるのは大きな強みなんだ」

 また、『マンチェスター・イブニング・ニュース』は現状について、「これほどけが人が出るとは誰も予想しなかったはずだが、夏にDF補強に投資しなかった事実が露呈している」と補強策にも疑問を呈する。実際、チェルシー戦、シティー戦は1失点ずつだったが、目下絶好調の守護神ダビド・デ・ヘアがいなければ失点は増えていたはず。1月のCB補強を求める声は相変わらず根強い。

セットプレー対応を見直せ

 これも守備の話だが、今季のユナイテッドはセットプレーがウィークポイントだ。チェルシー戦ではCKからディディエ・ドログバにヘッドを決められた。『ガーディアン』は、ドログバのマークにラファエルを付けた“ミスマッチ”を指摘した。試合前にはG・ネビルも、長身選手が多いチェルシーに対し、ラファエルやダレイ・ブリントの守備対応が不安と述べていたが、それが的中した形である。

 ドログバのヘッドは、ユナイテッドにとって今季CKから喫した3失点目だった。FKやPKを合わせると、すでにセットプレー絡みで6失点を喫しており、これは全失点の43%にも上る。ファン・ハールは現チームに高さが欠けていることを認めつつ、「長身選手と契約することが正解ではない」と述べているが、セットプレー対応の改善は急務。マーキング、集中力、連携など、今後の試合でも注目ポイントになる。

即効性を求めてはいけない

ファン・ハール流を信じ、けが人が復帰するまで我慢することも大切だ 【写真:Action Images/アフロ】

 ここまで課題を並べたが、最後の要素は“我慢”としたい。

『BBC』のロビー・サベイジのように「記者はいつになったらファン・ハールに厳しい質問をぶつけるんだ!」と血気盛んな解説者もいるが、実は英国内でファン・ハールの“アンチ”はまだ多くない。

 その最たる理由を、同じ『BBC』のチーフ・フットボール・ライターであるフィル・マクナルティ記者は、「ファン・ハールがモイーズよりもユナイテッドの要求と背丈に合った“個”だとみなされているから」と考えている。また、「前任者モイーズはしばしばユナイテッドの圧倒的なスケールに怯んでいたが、ファン・ハールはそれが当然の環境と捉えている」「彼は自分のアプローチと信念を信じている。スタートが悪くとも、鉄壁の自己信念は少しも揺らいでいない」とも記事をつづっている。

 それが伝わっているのか、サポーターの意見を集めた地元紙の記事などを見ても、今回の2試合で「チームは明らかによくなっている」という見方が目立った。もちろん「守備をちゃんとすれば」という条件付きだが、両ゲームで見せた終盤の追い上げには、間違いなく“王者の品格”が少しだが垣間見えた。

 チェルシーとシティーに肩を並べられるかと聞かれれば、現時点で答えは「ノー」だ。しかし、順位や数字ほど、悲観的な状況ではない。少なくとも、すべての選手を自由に起用できるようになるまで、“ファン・ハール流”をジャッジするのは時期尚早だ。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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