平川忠亮が浦和の翼を担い続ける理由 気配りの35歳がチームにもたらす安定感

神谷正明

ライバルでも救いの手を差し伸べる

平川(左)は周囲への気配りを常に忘れない。チームを引っ張るタイプではないが、見えないところで味方をサポートしている 【Getty Images】

 個人競技よりも団体競技を愛する男は、周囲への気配りを常に忘れない。センターバック(CB)が大胆に攻撃参加するのはミシャレッズの売りのひとつであり、森脇も攻め上がるのが大好きだ。ただ、守備の人であるCBが前に出ていくことはリスクの高い選択肢である。実際、昨年は前がかりになったスキを突かれて失点することも多かったため、今季は攻め上がりを控えて戦っている。しかし、それでも森脇が時折思い切って攻撃に打って出ることができているのは、平川が近くに控えているからだ。

「ヒラさんが『モリが前にいくなら、俺が後ろを見てリスクマネジメントしてやる』と言ってくれているんです。ヒラさんがバランスを取ってくれているから、思い切って前に行けています」(森脇)

 平川の気配りは試合中だけにとどまらない。今季ユースから昇格した関根貴大は、トップチームのハイレベルな練習にまだ慣れず戸惑っていたときに平川から優しくアドバイスされ、それから自信を持ってメニューについていけるようになったという。関根はシーズン前からペトロヴィッチ監督の目にとまった若手有望株であり、平川にとっては己のポジションを脅かすライバルでもある。しかしそれでも、困っている若手にさり気なく救いの手を差し伸べてしまうのが、なんともこの人らしい。

職人気質で兄貴肌

 その精悍(せいかん)な顔立ちは頑固な求道者を思わせ、初対面の人間はつい身構えてしまう。だが、ひとたび言葉を交わせば第一印象とのギャップに驚くことになる。「最初は怖いのかと思っていたけど、すごいいい人でした」。これは新加入選手や若手の口から度々聞かれるセリフである。

 常にチームを第一に考え、チームのためなら泥にまみれることも厭わない。本人も認めるように自ら進んでチームを引っ張るキャプテンタイプではないが、見えないところで味方をサポートしていく。決して大きなことは言わず、プロとして粛々と仕事を遂行して背中で語る。職人気質で兄貴肌。うまくいっているときはあまり目立たないが、困ったときには頼りになる男として存在感を増す。

 平川は言わば、浦和の安全装置である。

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著者プロフィール

1976年東京都出身。スポーツ専門のIT企業でサッカーの種々業務に従事し、ドイツW杯直前の2006年5月にフリーランスとして独立。現在は浦和レッズ、日本代表を継続的に取材しつつ、スポーツ翻訳にも携わる。

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